念願の獣医学部に入学して3ヶ月。

亜矢たち1年生はもっぱら座学で、本来動物の世話を始めるのはもっと後だが、

頼み込んで学部併設の動物病院で患畜の世話をさせてもらう毎日だ。

「はい、終わり!って・・・佐倉、白衣のひとつも用意したほうがいいよ、汚れまくり」

「あ、あはは」

手つきも危なっかしく、要領も決して良いとはいえない。

まぁ、本来動物の扱いについては先輩や教授から指導されて憶えるので、

何も知らない亜矢がうまくやれるわけもない。

・・・

「よう、加藤!お疲れ!佐倉も頑張ってる?」

「あ、藤島先輩、お疲れ様です」

「ああ、藤島君、牛舎で八頭先生が呼んでたわよ」

「なに~!くそ~またかよ」

・・・

「こんちわ~・・・って、佐倉ちゃんまた来てるんだ、偉い偉い」

「あ、こんにちわ中平先生」

それでも動物の事を知りたいし、学びたい。

純粋に好きだということもあり、熱心に動物病院で雑用をこなす亜矢は、

それなりに先輩や教授からも可愛がられていた。

「お、檻の掃除やってくれたんだ。偉い偉い!ほい、お駄賃」

講師の中平が亜矢に板チョコをポンと渡す。

「先生・・・私もやったんですが」

「加藤はオトナなんだから当然!」

「中平先生、いちおう私も大人なんですけど・・・」

「佐倉ちゃんはかわいいからオッケー」

「うぅ」

熱心な部分以外で可愛がられているのも、また事実である。


・・・・・・

・・・


廊下に出て手を洗い、中平から貰ったチョコレートをポリポリかじっていると・・・

加藤が含み笑いをした。

「ふふっ佐倉って小動物みたい」

「・・・・・・」

すこし複雑な顔をしてしまう。

大学の為に、故郷を離れてから、『子供っぽい』などという言葉にいちいち”かっちーん”と反応するのは

我慢しているが、気にならなくなったわけではない。

「あの、加藤先輩」

「?」

「あんまり、子供扱いするのは、やめてほしいかなーって」

「ああ、でも小動物と子供は違うわよ?」

「はぁ・・・」

なんだかよくわからないフォローを入れられる。

どういう返事をしようか迷っているうちに、老教授が部屋の中から顔をだした。

「加藤くん、と・・・佐倉くんか」

「どうかしましたか?」

「・・・いや、加藤くんちょっと来てくれ・・・」

「はい」

加藤だけが呼ばれた意味を特に考えることもなく、亜矢はチョコを急いで食べて後を追う。

加藤に続いて診察室に入ると・・・一羽のうさぎが診察台に乗せられていた。

「・・・ユキ?」

預かっている患畜の一羽で、亜矢が世話している中にいたウサギだった。

「・・・佐倉」

「佐倉くん」

「先生・・・ユキ・・・」

「うむ・・・」

老教授がシワだらけの顔を心持ち歪め、ブルブルと震えるユキに触れ、

少し迷ってから、手を引く。

「もって二日、いや、この衰弱だと、今夜あたりまでか・・・」

「・・・・・・」

教授は立ち尽くす亜矢をちらりと見て、目をスグにユキに戻す。

青くなって、今にもへたりこみそうな亜矢を見ていられないようだった。

「昨日まで、ちゃんと食べてたのに・・・」

「・・・しかたない、もういい歳だ・・・加藤くん、飼い主の方に連絡を・・・」

「はい」

電話に向かう加藤も亜矢をチラリと見た、それに亜矢は気づかない。

じっと、今際の際の動物を見て、瞳を揺らしている。


・・・・・・

・・・



3へ続く・・・