こんな大事な法案が、十分な審議も経ず、また国民に広く周知させる時間も与えずに採決されることには、多くの人が疑問や違和感をもったことだろう。俺も同じだ。この法案の中身を新聞報道で読んだときには、子どもの頃、戦時中の雰囲気を思い出した。暗い時代だったからな。戦争の体験や記憶のある世代が少なくなると、こういう法案が戦争を知らない世代から生まれてくるのかな。戦争の記憶のある俺たちの世代は、そういう意味では、疑義を申す責任があるよね。

 この法案の中身を精読するの専門家以外、容易じゃない。普通の人は、俺もだが、苦労して読んでも、うっすら何かが透けて見えてくるだけ。メディアは、法案の中身を、賛否取り混ぜて、よく絵解きする役割があったはずなのに、怠ってきた。この法案が可決された先に何があるのか。また、あの暗い時代に戻っていくのか、80歳になってこの先が長いとも思えない俺は、自分の事より、若い世代の事が心配だ。

 幸い俺たちは、70年近くの平和な時代を享受し、東北の町を先の事も考えず、無一文で無鉄砲に東京に出てきたが、何とか家も建て、仕事もしてこられた。若い人たちに伝えてくれ。時代をしっかり見ろ、と。政治が何をたくらんでいるか目を離すな、と。

【2013年12月1日付「しんぶん赤旗」日曜版