アベノミクスに欠けているのは、賃上げと雇用の安定のための政策です。金融緩和で日銀がお金をいくら供給しても、実際に社会の中でお金が回らなければ景気は良くなりません。一番問題なのは、賃金を上げることのできる企業でさえ、上げていないことです。利益を上げている企業や内部留保の大きい企業は、そのもうけを社員にも還元すべきです。そのためにもいま発想の転換が必要です。本当の競争力を強くするのは、目先の利益を追いかけるコスト削減ではありません。

 デフレの原因は、国内的にはバブル崩壊と規制緩和、国際的にはグローバリゼーション(地球規模での競争強化)だと思います。国内でも国外でも価格競争が激しくなり、企業はコストカットのために、賃金を抑え、正社員を減らして非正規社員をふやしてきました。その結果、国民の購買力が落ちてしまいました。雇用の安定がなければ、結婚して子どもをつくろうという前向きの意欲も怒らなくなります。少子化もますますひどくなっています。

 各企業は先行きが不透明だから、コスト削減は当然だというかもしれません。しかし、みんなが給与を削減すれば、消費が減り、日本全体の内需が落ち、企業の業績も悪化します。「合成の誤謬(ごびゅう)」です。大局的な観点から見ないと失敗します。
【2013年2月3日付「しんぶん赤旗」日曜版