人間の挫折と孤独を見つめた私小説的な作品で戦後社会を多面的に描き出した作家の安岡章太郎(やすおか・しょうたろう)さんが26日、老衰のため東京都内の自宅で死去しました。92歳でした。高知県出身。葬儀は近親者のみで済ませました。喪主は妻光子さん。

 慶応大学在学中の1944年に召集に応じて中国東北部(旧満州)にわたりましたが、胸部疾患で翌年内地送還に。戦後、脊椎カリエスを患いながら小説を書き、51年「ガラスの靴」を発表し注目され、53年「悪い仲間」・「陰気な愉しみ」で芥川賞を受賞。吉行淳之介、遠藤周作らとともに「第3の新人」と呼ばれました。

 軍人の悲哀を描いた「遁走(とんそう)」などで全体主義を批判する一方、次第に明るさを取り戻していく戦後の家庭を軽やかに描いた短編を発表しました。「海浜の光景」では高齢者問題を正面からとらえ、芸術選奨、野間文芸賞を受賞。自らの家計をさかのぼる「流離譚(りゅうりたん)」など戦後にうんめいh残る名作を執筆し、数多くのエッセーで文明批評を展開しました。

 日本文芸家協会理事、日本近代文学館理事などをつとめ、76年日本芸術院賞受賞、2001年文化功労者。2000年京都市長選挙で民主市政の会が推す候補への支持を表明。1997年東京都議選での
日本共産党の躍進を歓迎する談話を、また、99年には戦争法案(ガイドライン法案)に反対する談話を寄せました。「しんぶん赤旗」の新春インタビューにもたびたび登場しました。
【2013年1月30日付しんぶん赤旗に掲載】