「メディアの世界に身を置くと、力をもっていると勘違いしてしまうことがあります。高みから物事をみるのではなく、思いやりのある、やさしい人になってください」

▼シリア内戦を取材中に亡くなった、山本美香さんが残した言葉です。ジャーナリストをめざす学生たちに語りました。自戒をこめて彼女の言葉を思い起こすたびに、ともに、記憶のよみがえる話しがあります

▼ニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・ファクラーさんが、『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』で驚いている、わが国大手メディアの「生態」です。ある日、マーティンさんは、日本の抱き業の経営陣と記者たちとの「オフレコ懇談会」に出ました。

▼すると、1人の記者がいかにも慣れた感じで会長の横の「指定席」に座る。会長とごく親しそうで、会長が語る新情報もとっくに知っているようす。会長秘書のようにみえる彼は、ファクラーさんが日頃、「企業広告掲示板」と思っている大新聞の記者でした

▼ファクラーさんは、ある元官僚の誕生日を祝う宴会にも言葉を失いました。かつての担当記者らの催しです。50人が集まり、花束や記念品を贈るようすが新聞に報道されました。ニューヨーク・タイムズ記者が同様の誕生会を企画したら、すぐ「クビを宣告されるだろう」といいます。

▼権力をもつ者と一体化すれば、記者は余計に自分も「力をもっていると勘違い」(山本美香さんの言葉)氏がちです。人に思いやりのある報道が、彼らにどうしてできるでしょう。
【2012年9月6日付しんぶん赤旗に掲載】