20年前の光景がよみがえりました。全国高校野球選手権の高知大会決勝(24日)。明徳義塾は相手の高知の4番・法兼(のりかね)駿内野手にたいし、4連続をふくむ5四球と徹底して勝負をさけました。延長12回サヨナラ勝ちで甲子園出場を決めた明徳の馬渕史郎監督は「手堅くいった。耐えて勝った値打ちのある勝利」と喜びました。

 明徳といえば、1992年夏の甲子園大会で、星稜の4番だった松井秀喜(レイズ)を5打席連続四球。当時、この行為をめぐっての反響はすさまじく、社会問題にまで発展しました。馬渕監督はそのときも監督をつとめており、それを再現させた今回の敬遠指示には、指導者としての信念を感じます。

 しかし、勝利を得るために強打者との勝負をさけることが、はたして指導といえるのか。相手とフェアに全力でせりあうなかで、互いに成長していくー。それがスポーツの良さです。まして、高校野球は「教育の一環」です。馬渕監督は野球を通して、何を教えたいのでしょうか。

 フェアプレーはスポーツの命です。そこには、仲間への敬意や公正な精神、困難にひるまない不屈さや挑戦心、勝っておごらず負けてくさらない態度など、スポーツをするうえで大切な要素がすべて含まれています。

 そして、スポーツ人の行動規範ともいえるそれは、人間の生き方としても模範になるものです。そのことを教えずに、勝利だけに価値を見出している学校や指導者は、スポーツの一番大事なものが欠落しているのでしょう。
【2012年7月26日付しんぶん赤旗に掲載】


松下ゆたかのコメント 私は20年前の星稜ー明徳の行き詰る熱戦を思い出しましたが、松井秀喜選手への連続四球にはがっかりしました。テレビで無念の表情を見せる松井秀喜の顔がいまでも忘れられません。全国の高校生の純粋な心をゆがめる行為はあったはならないことです。

 私は大リーグも好きですが、「意図的な4球」など見たことがありません。強打者をどうやって抑えるか、剛腕投手をどう打ち込むかの緊迫感が野球の醍醐味です。教育者には、「勝つためには手段を選ばないやり方はいけない」ということこそ教えてほしいと考えます。