中部電力は16日、経済産業省原子力安全・保安院に対し、内閣府の有識者会議が示した南海トラフ(海溝)の巨大地震と津波について、浜岡原発(静岡県御前 崎市)で新たな対策をとらなくても安全を確保できるとの報告書を提出しました。東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)事故が示した巨大地震と津波 による原発事故の危険性を無視する姿勢に批判の声が上がっています。

有識者会議は3月31日、東海から四国、九州の太平洋側沖合の海底に横たわる南海トラフ沿いで東海、東南海、南海の巨大地震が連動するとマグニチュード (M)9・0の地震が発生し、浜岡原発は震度7の強い揺れと、高さ21メートルの津波に襲われる可能性があると指摘しました。同原発では福島第1原発事故 を受けて防波壁をかさ上げするなどの対策を進めていますが、保安院は2日、中部電力に追加の対策を検討し、16日までに報告するよう指示しました。

中部電力は、浜岡原発の1、2号機は廃炉措置中で、3~5号機は運転を停止しており、いずれの号機も安定した冷却状態にあると説明。建設中の高さ18メー トルの防波壁では敷地内へ津波が入ってくるのを防げないことを認めたうえで、原子炉や使用済み燃料プールの冷却ができなくなっても原子炉内の水位が低下し 燃料がむき出しになるまで最短でも6日かかるため、津波にのみこまれない高所に置いた可搬式動力ポンプなどで対応が可能だとしています。

解説

「世界一危険」廃炉決断を

浜岡原発は南海トラフ沿いの連動型巨大地震の震源域の真上にあります。有識者会議が示した連動型の巨大地震が起きれば、震度7の強い揺れと高さ21メート ルの津波に襲われ、現在建設中の高さ18メートルの防波壁が完成しても、防ぐことができません。経済産業省原子力安全・保安院が追加の対策を検討するよう 求めたのは当然です。

ところが、中部電力が保安院へ報告したのは、新たな対策を盛り込まなくても安全を確保できるとするもので、完全な「ゼロ回答」です。海底で起きた巨大地震 の強い揺れと津波で史上最悪の原発事故となった東京電力福島第1原発事故の教訓を全く学び取っていないといわざるを得ません。

原発の真下でM9の地震が起きて震度7の強い揺れと高さ21メートルの津波がほぼ同時に襲ってくる―、世界中の原発でそんな経験をしたところはどこにもあ りません。浜岡原発では09年8月に駿河湾でM6・5の地震が発生した際に5号機で想定をはるかに上回る強い揺れに見舞われ、同機で原子炉の安全に影響を 与える可能性がある中性子計測装置で異常が発生するなど、浜岡原発全体で35件の異常が確認されました。



想定は、1854年に起きた「安政東海地震(M8・4)」に基づくものでした。2007年の新潟県中越沖地震(M6・8)でも東京電力柏崎刈羽原発の 1~7号機全てで想定を上回る揺れを記録し、大きな被害を受けました。国と電力会社はその都度「想定外」を繰り返し、真剣に対策をとらないまま東京電力福 島第1原発事故が起こりましたが、いまだに想定外で言い逃れようとしています。

巨大地震の震源域の真上にある浜岡原発は、地震の専門家から「そもそもつくるべきではなかった」と指摘され、「世界一危険な原発」といわれ続けてきまし た。もはや想定外は通用しません。中部電力は「安全神話」にしがみついて、地震と津波の影響を軽視するのをやめ、ただちに浜岡原発全号機を廃炉にし、地震 と津波に対する抜本的対策をすべきです。 (間宮利夫)
【2012年4月17日付
しんぶん赤旗に掲載】