2009年11月のオバマ大統領の初来日に先立ち、当時の藪中三十二外務次官がルース駐日大使に対し、大統領の被爆地・広島の訪問は「時期尚早」と伝えていたことが分かりました。内部告発「ウィキリークス」が公表した在日米大使館発の米外交公電で明らかになりました。

クリントン米国務長官あての同年9月3日付公電によると、8月28日にルース大使は薮中氏と会談しました。席上、薮中氏は、オバマ大統領が同年4月にプラハで「核兵器のない世界」をめざすと演説したことを受け、日本の反核グループは大統領が広島を訪問するかどうか注目していると指摘。その上で「オバマ大統領が第2次世界大戦中の原爆投下を謝罪するために広島を訪問するという考えが現実的でない以上、日米両政府は世論の期待を抑えなければならない」と伝えました。

薮中氏はまた、オバマ大統領が簡素に広島訪問を行えば、米政府の正しいメッセージを伝える効果的なシンボルになるとの見解を示しながらも、11月の来日日程に広島訪問を入れるのは時期尚早だと述べました。実際、オバマ大統領は11月13、14日の2日間、日本に滞在しましたが、広島・長崎への訪問は行われませんでした。

【松下ゆたかのコメント】私は、「公電」の内容は事実であったと推察します。優れて政治的な判断が必要な問題に対して、薮中事務次官がどういう行動をとったのかが問われます。事前に外務大臣の判断を求めていたのかどうか、それともすべて外務省サイドで処理したのかどうかです。

広島と長崎に原爆を投下したのはまぎれもなくアメリカです。もし、オバマ大統領が広島を訪問するのに「手ぶらではいけない」という勝手な判断で、せっかくの訪問の機会をつぶしてしまったとしたら、歴史的な汚点をつくってしまったことになると思います。

この問題の焦点は、国民(被爆者)の視点に立って、せっかくの機会に政治を前に動かすと言う立場が欠落していたことです。政治家や官僚の脳裏に、国民の中にあるアメリカへのわだかまりを払拭するという立場が欠落しているということは嘆かわしいことですね。