わが国の科学者を代表し、政府に独立の立場から政策提言をするなどの役割を持つ国の特別機関である日本学術会議。3・11の東日本大震災以後、震災復興と原発事故の問題で7次にわたる緊急提言を公表するなど精力的な活動を行っています。7月11日に新しく会長に選出された廣渡清吾(ひろわたりせいご)・専修大学法学部教授に話を聞きました。<聞き手 若林 明>

この時期に会長に選出されましたが、科学・技術の立場から被災地の復旧・復興の問題と東電の福島第1原発事故の収束に向けて、提言・助言を行うのが最大の課題だと思います。これまで、7次にわたって緊急提言などを出してきました。被災地支援の体制づくりや国民の心配や疑問に答える基盤づくりについての提言や男女共同参画の視点にたって救援・支援・復興を進める提言などです。

その中で示された考え方の1つは、「市町村と住民を主体とする計画策定」の原則です。阪神・淡路大震災の復興は、上からの計画が先行したといわれています。このことは、その後の経過の中で批判もされました。そこで「市町村と住民を主体とする計画策定」の原則をあらためて確認することが重要です。

復興の主体はあくまで住民、市町村です。被災地域の人たちがどうやって困難を乗り越えていくかという課題ですから、その人たちを抜きに、計画をつくったり、アイデアを出しても成功しないでしょう。国の政策や計画は、この原則を基礎にしながら進める必要があります。

「日本国憲法の保障する生存権確立」の原則も、提言に示した大切な点です。憲法25条の生存権規定は、現代型憲法の先駆であるドイツのワイマール憲法の「人間の尊厳にふさわしい生き方」という考え方に由来しています。復興の中で重要なのは、すべての人びとが、人間の尊厳にふさわしくどう生きることができるか、それを、国の責任でどう保障するのかということです。当然、われわれの共通の目標でもあります。

ジェンダーの視点や子どもの問題も大切な視点です。災害弱者といわれますが、困難な事態になればなるほど、人間の「強弱」という問題が直接に表れます。被災地域で女性や子どもが抱えた問題にどう対処すべきかについても、提言を行ったところです。より具体的な提言について、それぞれの研究分野からさらに提言が行われることを期待しています。

また原発の事故についていえば、放射線の総合的モニタリングについての提言を出したところですが、さらに放射性震災廃棄物対策と環境防止に関する提言など、より少し突っ込んだ内容のものを準備したいと考えています。その際には、科学者が自ら集めるデータとともに、政府、関係機関、また東電などの持っているデータが科学者に広く開示されることが重要です。

この5月に、東電福島第1原発の事故について海外のアカデミーのために、事故経過報告書を作成しましたが、東京電力と東電が現場の状況を報告する保安院データはあるのだと思いますが、われわれはそれを手にいれることができずに苦労しました。

国民のみなさんは、この原発事故の収束の方向、どういう手順、プロセスを経て廃炉にいたるのか、その場合にどういう問題点があるのか。どんな手だてを使って克服していくのか、また、放射能被害のために避難された住民の方々がどのようなプロセスで戻ることができるのかについて見取り図を知りたいと思われているでしょう。

日本学術会議は、科学・技術の立場からこのような国民の要請にこたえるべきだと考えています。科学者自らのデータの収集とともに、情報公開は、とても大切な原則です。

このお話を読んで、学術会議の果たしている役割の重大さを改めて認識するとともに、政府がもっと学術会議の提言を重視して震災の復興に生かしてほしいと実感しました。日本は「科学立国」といわれながら、実際には原発マネーに汚染された御用学者が巾をきかせてきました。この悪しき体質を一層させるために、廣渡新会長のご健闘に期待します。