原子力発電の推進勢力は「クリーン、安全、経済的、安定」をうたい文句にしてきました。東京電力福島原子力発電所の事故は、このせんでんにまったく根拠がなかったことを明らかにしました。

①「クリーンのウソ」 推進派は「二酸化炭素の排出が他のエネルギー源より少ない」と原発を売り込んできました。しかし、原発事故には他の事故に見られない「異質の危険」があります。環境への影響を温室効果ガスの問題だけにわい小化すべきではありません。福島原発事故で外部に放出された放射性物質は大気や海流に乗って広がっています。避難者は12万人を超えるとみられます。放射性物質は、細胞内のDNAなど重要な生体物質を傷つけます。急性障害だけでなく、後でがんが発生する可能性もあり、何年にもわたって健康に害をもたらします。「クリーン、安全」どころか、他のエネルギー源にない最悪の環境汚染を引き起こします。原子炉を運転して生じる「使用済み核燃料」に至っては、安全に処理する方法がありません。青森県六ヶ所村にある再処理工場は、技術的に行き詰まっています。この工場が本格稼動しても、再処理で生じる高レベル放射性廃棄物は30~50年貯蔵、冷却し、その後、300㍍より深い地下で数万年以上にわたって保管しなければ、放射性物質を人間の生活環境から隔離できません。

②「安いのウソ」 電気事業連合会のパンフレット「原子力2011コンセンサス」によると、電源別の1㌔㍗時当たり発電コスト(40年運転ベース)は水力の11・9円、石油火力の10・7円、石炭火力の5・7円に対し、原子力は5.3円とされます。しかし、原子力発電には技術開発や立地対策に国家財政が投入されています。この費用は料金原価に算入されていません。立命館大学の大島堅一教授がこうした財政支出を加えた1㌔㍗時当たりの総コストを算出したところ、原子力は10・68円、火力の9・90円、水力の7・26円を上回りました。推進派が宣伝する原発の「安さ」は、膨大な国家財政投入を覆い隠してつくられた虚構です。原発の発電コストには、事故の際の損害賠償費用は含まれていません。福島原発事故による被害額は、確定していませんが、兆円単位になることは確実です。重大事故が起きれば、他の電源と比べものにならない巨額な費用がかかるのが原子力発電です。これを加えれば、原発の発電コストはさらに大きなものになります。

③「安定のウソ」 電力の安定供給についても、福島原発事故は原発の致命的な欠点をさらけだしました。日本で使われている軽水炉は冷却水が止まってしまうと、核燃料から出る膨大な熱をコントロールできず、核燃料が溶け、放射性物質が外部にまきちらされます。安全技術が未確立なのです。炉心溶融に至らないまでも、多くの事故が起きています。原子力安全基盤機構の集計によると、法律に基づいて報告された商業用原始炉のトラブルは、66年度末までに728件。年度平均16件です。原子炉の計画外停止回数は、原子力安全基盤機構が発表している81年度から09年度までで368回。年度平均12回です。電力会社による事故隠しもしばしば発覚しています。02年には東電が長年、多くの事故を隠してきたことが分かり、翌年、同社のすべての原発が運転を停止しました。原子力は電力供給の面でもきわめて不安定なエネルギー源です。