円安は国力の低下? 

最近、為替の変動が激しく、急速に円安方向へ進んだことで、不安を感じた人も多いと思います。為替が大きく動くと、人々の不安を煽るかのように大袈裟に無茶な持論を展開する人が現れます。どのような持論を持つこともその人の自由ですが、極端な意見については慎重になることが肝要かと思います。

 

円ドル為替レートが160円まで進んだことで、このまま200円になってもおかしくない、などという極端な意見が出始めました。このような極端な意見が現れると、そろそろ相場の転換点なのかなあ、と感じます。というのは、かつて円高が急速に進んだ時も、同じような極端な意見が飛び交ったのを覚えているからです。

 

2007年6月頃、円ドル為替レートは120円くらいでした。それが円高に動きはじめ、2010年6月には90円前後、そして2011年6月には80円を切るところまで円高が進みました。その頃、円ドル為替レートは50円まで進む、などと極端な意見を述べる人がいました。今でもよく覚えています。

 

2012年になっても80円前後の水準が維持されていましたが、2013年になると円安方向へと動きはじめ、2014年12月には120円程度まで円安が進んだのです。

 

マーケットというのはしばしば行きすぎることがあります。2011年前後の円高は、明らかに行き過ぎだと感じますが、一度、ある方向へ動き出すと、簡単には止まらないのです。しかし、行き過ぎた相場はやがて逆に動きはじめます。

 

今般の円安局面において、日本の貿易赤字が原因であるとか、IT関連のサービス収支の赤字が増大しており、日本の国力が低下しつつあるので、それが円安の原因である、などともっともらしい事を主張している人がいました。

 

日本の国力低下を心配するのは結構ですが、人々の不安を煽るような態度には賛同できません。数字を見る限り、日本と外国との関係において、為替に影響を与えるほどの国力低下が生じているようには見えません。日本の経常収支の推移を見たところ、一貫して黒字を保っています。1996年まで遡って調べましたが、赤字になったことはありません。

 

貿易収支だけを見ると、1996年から2022年までの間で、赤字になったことが何度かあります。

2011年、2012年、2013年、2014年、2021年、2022年の6回です。(それ以外の年は黒字)

そして、2011年から2014年というのは、上記の通り、急激に円高が進んだ年なのです。この点から、貿易赤字と為替レートは何も関係ないように見えます。

 

次にサービス収支を見てみると、1996年から2022年の間、すべて赤字です。黒字になったことは一度もありません。サービス収支の金額は変動していますが、2000年の赤字額と2022年の赤字額はほぼ同じです。但し、その中身は変化しています。確かに、近年、IT関連のサービス収支の赤字額は増加しています。しかし、旅行が赤字から黒字に変化していること等により、全体として赤字額はそれほど増えていません。

 

2022年、貿易赤字とサービス収支の赤字が生じているにも関わらず、経常収支が黒字になっているのは、所得収支が大幅な黒字になっているからです。最近特に直接投資収益が増大しています。

 

日本の経常収支は常に黒字を維持しています。また、日本の外貨準備高は中国に次いで第2位であり、今年4月末時点の外貨準備高は1,278,977百万ドルです。なんと1兆ドル以上を保有しているのです。これだけドルを保有している国の通貨が円安になっているのは果たして国力が衰えているからでしょうか?所得収支が大幅な黒字で、海外に多大なる資産を保有している国がどうして国力が弱いなどと言えるのでしょう。

 

日本を外国との対外関係で評価すると、豊かで経済力が強い国であることは間違いありません。かといって問題がないわけではありません。国内には様々な課題、問題があります。それでも、日本経済を全体としてみると、世界有数の豊かな国なのです。この点において過度に悲観的になる必要はないのです。