今日の読売新聞に、「中国新車販売、日系前年割れ」という小さな目立たない記事が載っていました。記事によると、新型コロナ感染拡大に伴う生産の停滞や半導体不足が響き、日系3社の中国における新車販売台数が前年を下回った、とのことです。この書き振りだと、コロナの流行によって売れ行きが落ちているのだから、いずれ回復するのではないか、と解釈する人が多いと思いますが、果たして本当にそうでしょうか。私の認識は異なります。読売新聞に記載された数値の下に中国BYD(新エネルギー車専業メーカー)の販売台数を追記して比較すると以下の通りです。
2022年(1年間)の日系3社とBYDの販売台数
トヨタ 194万台 対前年 -0.2%
ホンダ 137.3万台 対前年 -12%
日産 104.5万台 対前年 -22%
BYD 186.8万台 前年の2.5倍
昨年12月の単月では以下の通りです。
トヨタ 18.3万台 対前年同月比 -19.8%
ホンダ 13.8万台 対前年同月比 -17.9%
日産 7万台 対前年同月比 -41.7%
BYD 23.5万台 対前年同月比 2.4倍
なお、2021年と2022年の中国における新車販売台数合計の数値は以下の通りです。
2021 2,627.5万台 内、新エネルギー車 352万台
2022 2,675.7万台(見込み数値)
参考 新エネルギー車(1月から11月)625万台
以上をまとめると、2021年と2022年の中国における新車販売台数はほぼ同じであるが、日本メーカーの販売台数は減少している。一方、新エネルギー車の販売台数は増加しており、中でも中国BYDの販売台数が急増している。となります。
このことから、中国マーケットでは、電気自動車やプラグインハイブリッド車で売れているのは中国のメーカーであり、日本のメーカーは見向きもされていないのではないか。という仮説が生じます。そして、これは仮説というより事実であり、中国の新エネルギー車のマーケットをみると、日本やヨーロッパのメーカーが販売する電気自動車は全く売れていません。これまでテスラだけは好調に売れていたのですが、最近はテスラですら売れ行きを落としている状況です。
今や中国EVメーカーの技術力は飛躍的に向上しており、テスラですら追い越されそうな勢いなのです。この不都合な真実を認めたくない日本人は多いことでしょう。多くの日本人は日本の自動車メーカーの技術力が世界一だと信じています。中国メーカーに劣るわけがないと考えていることでしょう。そういった世論に迎合するかのように、読売新聞は中国EVメーカーが売上台数を急増させている事実には触れず、日本メーカーの状況だけを記載し、あたかもコロナウイルスのせいで日系メーカーが苦戦しているといった現実逃避的な報道をしたのではないでしょうか。
人は誰でも、自分の信じたい物だけを見ようとします。目の前に事実を提示されても、なお、自分の信じる考えを擁護するために無理やり理由を探そうとする傾向があります。ですが、このような態度では真の姿を見誤ることになります。今生じている出来事をフラットに捉え、偏見をなくし、冷静に分析する必要があります。
地球温暖化を防ぎ、温室効果ガスを減らしていくためにガソリン車から電気自動車へと移行させていくトレンドは世界的な潮流です。中国はこのトレンドを察知し、早くから戦略的にEVメーカーを後押ししてきました。一方欧米や日本の既存自動車メーカーは、自分達がこれまで成し遂げてきた内燃機関の技術への愛着のせいか、電気自動車の研究開発が遅れたように思えます。その結果として、中国EVメーカーは中国でのシェアを増加させ、日本メーカーはシェアを落としている。これが実態ではないでしょうか。日本メーカーは生産が停滞しているというより、人気が落ちて販売を減らしている、といった方が実態に即していると思います。
私の解釈が正しいか誤っているかは数年後に判明するでしょう。ただ、重要なのは物事を感情的に判断するのではなく、起きている事象を客観的に捉え、数値を比較し、冷静に分析することです。また、ひょっとすると自分の考えが間違っているかもしれないと、常に自分自身を疑うことも必要です。簡単ではありませんね。