地球温暖化に憂慮し、日頃から私なりに環境問題解決に関する情報にアンテナを張っています。最近、私のアンテナに引っかかった朗報はスェーデンの鉄鋼大手SSABなどが設立したHybritの動向です。これは、製鉄において、石炭などを燃やして鉄を作るのではなく、水素還元法により鉄を製造しようという試みです。

 

地球温暖化の大きな要因は二酸化炭素排出の増加です。その(日本における)内訳を見ると、産業部門の排出が最多となっています。環境省が作成した「2020年度の温室効果ガス排出量について」によると、Co2の電気熱配分後排出量(Co2排出量を消費者側の各部門に配分した排出量)では、産業部門37%、運輸部門19%、業務その他部門19%、家庭部門17%、エネルギー転換部門8%となっており、産業部門が最大の排出部門です。その産業部門の内訳を見ると、37%が鉄鋼業です。すなわち、鉄鋼業が全体の13.5%を占めているのです。ちなみに、自家用車は全体の8.7%です。現在、電気自動車が話題となっていますが、日本の自家用車を全て電気自動車に変えて、かつその使用電力を再生エネルギー由来にしたとしても、Co2は8.7%しか減りません。Co2排出において鉄鋼業の割合の大きさがよくわかります。

 

上記の通り、鉄鋼業でCo2の排出を減らすことは極めて重要なのですが、これは極めて困難だ。とされていました。鉄鉱石から鉄を取り出すために、石炭を燃やすので、Co2が発生します。電気を使って鉄スクラップを溶かしてリサイクルする電炉という方法もありますが、高級なスチールを作るためには高炉の方が望ましいとされています。日本の鉄鋼メーカーは脱炭素のため研究開発していますが、未だ成功していない、と思っていました。

 

ところが、スェーデンの企業が水素を使って製鉄することに成功したというのです。これは驚きであるとともに、脱炭素への大きな希望だと思います。というのは、現在、様々な業界でCo2排出削減の取り組みが行われていますが、技術的に見て最も困難なのは製鉄業だと思っていたからです。水素を使って製鉄する水素還元法は理論上は可能でも、実現にはまだ10年以上を要すると思っていました。実際、日本の大手鉄鋼会社は随分前から研究開発していますが、全く実現の目処が立っていないように思われるからです。スェーデンの企業が成功したことは地球環境問題の解決に向けた大きな一歩です。一方で日本の鉄鋼メーカーが先を越されたのは残念でもあります。日本の技術力はもはや世界のトップレベルから落ちてしまったのでしょうか。

 

日本の技術力の件はさておき、鉄鋼業において脱炭素の可能性が開けたことは、私の中ではとても大きなニュースです。鉄は地球上に最も多く存在している、我々の生活に欠かせない金属です。鉄のない文明など想像できません。おそらく空気、水、食料の次に重要な物ではないでしょうか。製鉄において脱炭素が成功しなければ、Co2排出0など不可能だと思っていました。製鉄業において脱炭素の可能性が開けたことは、極めて大きな一歩です。これで、Co2排出0が夢物語ではなくなってきました。

 

最近、いろんなメディアでSDGsや地球環境問題に関するテーマが論じられています。それだけ多くの人が関心を持ち、また真剣に取り組んでいる証拠だと思います。今や社会問題とは縁遠いと思われるような雑誌などでも話題にされています。私はこういった動きをポジティブに捉えています。確かに世界各地で生じている気候変動などの問題を見ると悲観的になりますが、一方で多くの人が問題解決のために努力しています。その一つ一つは小さな動きで、問題の大きさに比べると微々たる物ではありますが、それでも確実に前へ進んでいると感じます。2023年、今年もきっとそのような進歩、前進を感じられることと思います。