ヘディンの著した「さまよえる湖」を読んだ。ヘディンは70歳近くになって、砂漠のなかの湖ロプノールを目指してカヌーで探検する。砂漠のなか、強風にあおられながらも嬉々として探検に勤しむヘディンがなぜそれほどまでにロプノールに憧れたのか。

 砂漠の真ん中にどうして楼蘭のような街が栄えたのか。古い記録にはっきりと残っている湖はどうしてその位置が大きくずれているのか。20世紀初めに地理学上の論争となったロプノールの謎に革新的な学説を唱えたヘディン。その学説とは、紀元330年頃まで楼蘭のそばにあったロプノールが突然南方に移動して消滅したために、楼蘭は寂れ、廃墟となり、位置がずれている。やがてはその湖が再度北方に移動し、昔あった場所に戻るだろう。というもの。でも、その学説を自ら確かめることができるとは思わなかっただろう。

 楼蘭を発見してから約20年後、タリム川が干上がって、新しい川が北方にできていることを知ったときの興奮はいかばかりだったろう。自説のとおり、ロプノールが再度北方へ移動したことがわかったのだ。1600年前に移動した湖が再びもとの位置に帰ってきた。これにより、ヘディンの仮説は誰の目にも正しいことが明らかになった。

 自らが生涯をかけて探求してきた自然の壮大な営みによる学説を自分の目で確かめることができるとしたら、これほどの喜びはないだろう。さまよえる湖。なんともロマンチックな響きがあるロプノール。中国とヨーロッパを結ぶシルクロードにおいて重要な位置を占める砂漠のなかの川と湖。ヘディンは砂と岩と風があるだけの不毛の地に夢とロマンを感じ、その生涯を捧げた。この本ではヘディンの探検の様子が詳細に生き生きと描かれている。