169. Serge Chaloff | BACKUP 2024

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備忘録

 

 

 

バリトンサックス奏者サージ・チャロフのワンホーンによる名盤「ブルー・サージ」を聴く。
バリトンサックスと言えば、私には真っ先に思いつく人がいる。ジェリー・マリガンである。この件での異論は多くあるまい。確かにマリガンはこの楽器の第一人者だった。そして同時代のサージ・チャロフがマリガンの独走を許したその訳は簡単だ。彼が33歳の若さで夭折したせいだった。

バリトンは人が少ない。だからライバルも少ない。それは何故か。バリトンは大変なのだ。大きく重く、相当難しいらしく、その割に報われない。敢えて選択する理由が見つからないくらいだ。だがバリトン特有の音色の魅力は実際テナーと比べて勝るとも劣らないし、ましてアルトなどには絶対に真似の出来ない迫力がある。軽快なアルトが西部の伊達男、夕日のガンマンだとするなら、重厚なバリトンはドイツ機甲師団の重機関銃だというくらいの差がある。ハンドガンとガトリングガンの差だ。バイオハザードでどちらかを選択可能なら、私はぜひ後者にしたい。
とはいえ「エクスペンダブルス3」でドルフ・ラングレンが「10秒しかもたない」とおちょくられていたガトリングガンは、並みの男の手に負える代物ではけしてない。サージ・チャロフはその鈍重とも言えるバリトンを自在に操り朗々と歌った。性格のいい、ナイスガイだったと言われている。
「留学先のバークリーで最初にデートに誘われたのがサージ・チャロフだった、いい男(ひと)だったわ」

と、ピアニストの秋吉敏子さんが証言している。

マリガンにはどちらかといえばクールでメカニカルな印象があるが、サージ・チャロフはもっと情緒溢れる演奏を得意とした。ビブラートを効かせたスウィング系で、そのスタイルからジョニー・ホッジズ(sa)のバリトン版といった趣きがあった。なるほど、キャピタルがワンホーンで録りたかった筈である。
本作は加えてソニー・クラーク(p)の参加がデカい。更にはフィリー・ジョー(ds)にリロイ・ビネガー(b)とくる。最初から成功を約束されていたようなものだった。