いきなり何かをやって成功する。
マンガの世界ではあるかもしれないが、
現実にはなかなか見込めないことだ。
 
だが、えてして人はそれを自分に期待する。
ひょっとすると、うまくゆくかも……と。
 
そして、やっぱりそうでなかった、と
がっかりするような、安心するような。
 
その事柄そのものが初めてであったとしても、
その素養というか、
何か基本になることができていたら、
習得が早い、ということはあるだろう。
 
息子の自転車マスターには驚いた。
小学校二年生という年齢が、
体格や体力からしても、技術習得からしても、
柔軟であった、という時期的な幸運もあったかもしれない。
だがそれにしても、
初めて跨ってから
ものの5分でちゃんと走れるようになったというのは、
やはり見ていて驚きであった。
 
自転車に乗るというのは、
もちろん或る程度の力のようなものも必要なのだが、
それにも増して要は、バランス感覚である。
これを体が覚えない段階でペダルを漕ぎ始めると、
バランスを立て直せないままに転びまくる。
 
いや、転ぶのもいいことだ。
転ばないと失敗の意味を考えないのも確かなことである。
しかし、無駄な怪我はしなくて済むならそれもいい。
まずは地面を蹴って足を浮かせてごらん。
 
彼はこのとき、実によいバランスをとった。
ああ、これなら今日中に乗れるようになるかも、と
私は思った。
しかし、あまりにもよくできるので、
ペダルに足を載せてもいい、とか、
じゃあもしかして漕いでみるか、とか
持ちかけてみると、彼は全部クリアした。
 
なんのことはない。
5分すると、もう
百メートル走ることができるようになっていた。
こうなれば、いくらでもできる。
もう少しすると、何百メートルでも、
自由に乗れるようになっていた。
 
(続く)