ナツアカネだろうか、トンボが飛び交っている。
まるで、人間の動きを偵察しているみたいだ。
草いきれの奥から、虫の音が揺れて届く。ズイィィィッ。

疲れたシロツメクサに、モンキチョウが留まっている。
地面すれすれに、サブマリン投法のように変化してくる。
ときに、シジミチョウ系も混じってくる。

スズメも、人家より安心して飛んでいるのだろうか。
それとも、人家のほうが、他の鳥に襲われにくいと考えているのだろうか。
杉の木の並ぶ森から、ブッポウソウの声がした。
ずいぶん久しぶりに、聞いたような気がする。

夏草の上空を風が横切る。
静寂の森から、音が震えてくる。
オーケストラのフォルテが、クレッシェンドで襲ってきたかと思った。
どうやら、セミの声だ。

たとえ人間が、この地上から忽然と姿を消したとしても、
同じように風はそよぐのだろう。
生き物も、同じように生き続けるだろうか。

風が吹くころ、人は罪を知った。
創世記三章である。

自然の中にほうり置かれ、耳を澄ますならば、
自然の音とともに、自分を見るようになる。
目の前の仕事に、どこか自分をごまかしている日常が、
ハイデガーの頽落という語と重なり合ってくる。

夏。
自分自身を見つめたいなら、
自然と向き合ったらいい。
山でも、海でも、きっといつまでも相手にしてくれる。
そんな時間をもつのでなければ、
きっと心はスカスカになっていくことだろう。