「新・風に吹かれて」を買った。もう、あと数十ページで読み終えてしまう。

 僕が五木寛之という作家を知ったのは、中学校2年生だったから既に30年近くになる。最初は、NHKでやっていたラジオドラマ「青年は荒野をめざす」だった、ことは以前にも書いた。

 その後、原作を読み、エッセイも沢山読んだ。僕はすごく共感して大ファンになったが、やがて80年代になり「軽薄短小」の時代となった。暗いことは悪いこと、という時代だった。無意味な明るく振る舞う人が多かった。五木さんの世界はかすんだように見えたが、彼の活動はずっと続いていたし、ラジオ番組もとぎれることはなかった。ということは地下水脈のように、五木さんに心のより所を求めていた人は少なくなかったのだろう。

 僕が行き詰まった時には、必ず僕に寄り添うように五木さんの本が近くに寄ってきてくれた。だから、初めて五木さんを見た時には、旧知の方のような気がしたものだ。

 最初の「風に吹かれて」が書かれた時代は、僕の時代とは重ならないが、大好きな本だった。

 

 「風に吹かれて」を読んだ頃の僕は、生意気盛りで、「時代」などという得体の知れないものとは決別して生きようと思っていた。やがて、そんな僕に大河の一滴であることを五木さんは優しく語りかけ、その中から自分らしく生きることを教えてくれた。迷いながら、苦しみながら生きればいい、と繰り返し五木さんは僕に語ってくれている。