記憶ははっきりしないが、帯広駅には午前4時近くについたと思う。短い時間だが、親しく話した彼らが汽車を降りていく。もちろん名前もしらない仲である。多分、これから一生会うこともない人達だろうが、僕たちにはストーンズという共通の思い出が残っている。かなり感傷的な気分になってきた。
午前6時前、汽車は釧路駅についた。最初に知り合ったおじさんが黙って手を軽く振って、降りていく。僕は軽く会釈をした。
僕には、この日の午前中から仕事がある。思い切って休みをとってしまえば気が楽だったが、釧路に着いたからには、仕事をしないで寝てるわけにもいかない。早朝のタクシーにのって家に向かった。道路には結構な量の雪が残っている。
家に帰って、丁重に家族に礼を言った。気分が高揚しているのであまり眠気は感じない。朝ご飯を食べた。家の駐車場には水分を多く含んだ春のどっしりと重い雪が横たわっていた。雪かきをして職場に向かった。前日に何かあったっけ?というくらいに普通の朝が始まった。
感傷にふけっている時間はない。でも、そんな状況も悪くないと思った。自分には自分のフィールドがある。そこで精いっぱい頑張ってみようという元気がこみ上げてきた。きっと僕みたいな人は多いだろう。なにせステージを2時間走り回り、3万人もの心をつかんで盛り上げた彼らは60歳を越えているのだ。弱音は吐いていられない。
僕の中のストーンズの存在は、これからどんどん大きくなっていくような気がする。
ミックが歌う姿を間近に見ることができ、キースのピックやチャーリーのスティックが近くに飛んできた。すごいことがたて続けに起こった。その瞬間には全てを理解できなかったが少しずつ現実感を伴ってきた。やっぱり55000円は僕にとって全くおしいものではなかった。
後で思い出してみると、新得駅は学生時代にヒッチハイクをした時にたどり着いた駅だった。当時、札幌に住んでいた弟のアパートに遊びに行こうとヒッチハイクをして、途中で挫折して列車に乗った駅が新得駅だった。20年たって同じ場所に立って弟と電話で話していたのだ。
現実に立ち向かう元気を勇気をもらって、今回の僕のツアーが終了した。
最後に、メンバーのコメントを紹介して長い長い2日に渡る記録を終えることにする。
「ストーンズがなぜ今も人気があるかって? それに対する答えはないね。単にラッキーなだけかもしれないし、古い建物といっしょで、年月がたつほどあじが出るものなのかもしれない。地道な努力がものをいっているのかもしれない…多分、それら全てがあたっているんだろう。」(ミックジャガー)
「ストーンズの将来について考えたことはなかった。バンドに参加して以来、一回もない。一ヶ月ももてばいいと思っていた。それが、ここまでくるとは驚きだ。」(チャーリーワッツ)
「こんなに(ストーンズが)大きな規模のコンサートになるなんて、いまだに信じられない。自分の周りで大勢の人達が機材の運搬なんかで忙しく動き回っている。こんなことに自分が関わり合いを持つなんて思ってもみなかった。おれは、いまだにE7を正しく弾けるように練習しているんだから。」(キースリチャーズ)