2004-11-13
連載小説
大型トレーラーを運転したい!
第一話
免許更新
「いいな~喜多村さんヨー。もう今日からあれの運転ができるんだぜ~」
遠藤の指差す方を見ると窓の外に鋼材を積んだ濃い緑色の大型トレーラーが地響きを立てて走り去って行くのが見えた。
昭和六十三年四月一日。天気は快晴。風も無く穏やかな陽気だ。
その日差しで千葉市幕張の千葉県自動車運転免許試験場の桜も満開になっている。
ここはその向いに在る食堂だ。隣は申請書類の代書屋とかメガネ屋が数軒並んでいる。昼時なので店内は込み合っていた。奥のテーブルを囲んで五人の男達がそれぞれの昼食を食べている。
よく見るとその一行は奇妙な組み合わせだ。喜多村さんと呼ばれた男だけが白のワイシャツに紺のスーツ、紺地に白の水玉模様をあしらったシルクのネクタイ、磨き込まれた黒の革靴。年齢は三十代後半から四十才位、涼しそうな目元で頭髪は七三に分け、サラリーマン風だ。眼鏡は掛けていない。
後の連中は二十代後半からせいぜい三十才位、皆作業服姿である。作業服のデザインは四人とも違っているが胸ポケットの所に○○運送株式会社とか△△運輸とかの縫い込みが有る。スーツ姿の喜多村を取り囲む様に座っていた。
喜多村に話し掛けた遠藤は大柄小太りで紺の作業服だ。パンチパーマで品を落としている上に顔に傷跡が有るので近寄りがたい風貌だ。でも笑顔は可愛い。歳は二十四五才位だ。喜多村の右隣に座っている。
「いいよな~、喜多村さんは絶対に運が強いんだよな~。俺なんか会社で毎日トレーラーの練習をしてたから絶対合格する自信有ったんだよな~」
遠藤の向かいに座る山本が言った。
クリーム色の作業着の袖を二の腕まで折り上げている。色白の優男で頭はパンチパーマだが遠藤ほど下品では無い。彼がその気なら今直ぐにでも錦糸町辺りでホストになれそうだ。金縁の眼鏡をかけているがメッキのようである。遠藤より老けて見えるがせいぜい二十六七才位だろう。
「俺、来週また受けてみるわ。来週は俺も喜多村さんみたく紺の背広着て来ようかな。今日受かったもう一人の奴もブレザー着ていたからさ。ここの試験官は見かけ重視かもしれねえからな」
と遠藤が言った。
「あっ、それいいかも知んない。遠藤さんが背広着たら試験官間違いなくビビってしまうぜ。絶対にその筋に見えちゃって運転手なんかに見えなくなってしまうもんな。でもそれで合格するかどうかは分からねえけどな。でも試験官に覚えてもらえる事は間違いねえよ」
山本が言う。男達が声を上げて笑う。
遠藤がダークスーツを着込んだ姿を皆が想像したみたいだ。
「しょうがねーよ、俺五年前までマジで族やってたからさ~。ビシッっと決めたらよけいに柄悪くなっちまうわな~」
遠藤が笑いながら答えた。
「俺も来週受けてみるわ。普段はなかなか休みが取れないけど来月は仕事が暇になるからな。来週受けて合格出来なかったら会社に相談して教習所に通うよ。今うちの会社ヘッドが空いているんだ。会社は車を遊ばせたく無いから、教習所代位出してくれると思うよ」
山本が言った。後ろの台車の事をトレーラーと呼ぶ。そしてどうやらトレーラーを牽引する車の事をヘッド(頭)と言うらしい。
「おれも来週受けます・・・だけどバックが思う様にいかないですよね~」
無口な中山がやっと口を開いた。角刈りで背丈は低いが筋肉質の身体だ。切れると恐いタイプである。目つきが鋭い。鋭い目つきで右隣の山本の方を見る。山本と同年代だ。
「そうなんだよ、ここのトレーラーはちょっとばかし、みじかすぎるんだよな。前進は何とか大丈夫だけどバックする時なんかグジャグジャになって、どうやったらいいか全く見当もつかないよ。何回も何回も通って車の感覚を掴まなければ絶対に合格は無理だよな。」
山本が答えた。
「ヨシ、俺ももう一回受ける事にするよ。これでは諦めきれねえよな」
パンチパーマの清水も受けるようだ。身長は高く痩せている。視線が落ち着かない。神経質そうだ。三十才位であろう。
皆それぞれ違う運送会社に勤めているので一人一人仕事の内容や待遇、それに会社の事情は違っているが、共通するのは皆の免許取得に対する前向きな情熱と車好きと言う事だ。
喜多村以外の全員が彼らの話に依ると車好きの元暴走族だった。車を改造したりその改造車で走ったりするのが大好きで、気が付いたらグループに入っていたと言う訳だ。ただ遠藤だけは少し違って、ちょっとだけ頑張って自分のグループを結成して頭をやっていた。就職は当然の様に車に縁のある運送会社となった訳だ。
そしてどうやらこの五人の中で紺のスーツ姿の喜多村だけが運転手でも元暴走族でもないけど、けん引免許実技試験に合格した様だ。
大型トレーラーを運転したい!
第一話
免許更新
「いいな~喜多村さんヨー。もう今日からあれの運転ができるんだぜ~」
遠藤の指差す方を見ると窓の外に鋼材を積んだ濃い緑色の大型トレーラーが地響きを立てて走り去って行くのが見えた。
昭和六十三年四月一日。天気は快晴。風も無く穏やかな陽気だ。
その日差しで千葉市幕張の千葉県自動車運転免許試験場の桜も満開になっている。
ここはその向いに在る食堂だ。隣は申請書類の代書屋とかメガネ屋が数軒並んでいる。昼時なので店内は込み合っていた。奥のテーブルを囲んで五人の男達がそれぞれの昼食を食べている。
よく見るとその一行は奇妙な組み合わせだ。喜多村さんと呼ばれた男だけが白のワイシャツに紺のスーツ、紺地に白の水玉模様をあしらったシルクのネクタイ、磨き込まれた黒の革靴。年齢は三十代後半から四十才位、涼しそうな目元で頭髪は七三に分け、サラリーマン風だ。眼鏡は掛けていない。
後の連中は二十代後半からせいぜい三十才位、皆作業服姿である。作業服のデザインは四人とも違っているが胸ポケットの所に○○運送株式会社とか△△運輸とかの縫い込みが有る。スーツ姿の喜多村を取り囲む様に座っていた。
喜多村に話し掛けた遠藤は大柄小太りで紺の作業服だ。パンチパーマで品を落としている上に顔に傷跡が有るので近寄りがたい風貌だ。でも笑顔は可愛い。歳は二十四五才位だ。喜多村の右隣に座っている。
「いいよな~、喜多村さんは絶対に運が強いんだよな~。俺なんか会社で毎日トレーラーの練習をしてたから絶対合格する自信有ったんだよな~」
遠藤の向かいに座る山本が言った。
クリーム色の作業着の袖を二の腕まで折り上げている。色白の優男で頭はパンチパーマだが遠藤ほど下品では無い。彼がその気なら今直ぐにでも錦糸町辺りでホストになれそうだ。金縁の眼鏡をかけているがメッキのようである。遠藤より老けて見えるがせいぜい二十六七才位だろう。
「俺、来週また受けてみるわ。来週は俺も喜多村さんみたく紺の背広着て来ようかな。今日受かったもう一人の奴もブレザー着ていたからさ。ここの試験官は見かけ重視かもしれねえからな」
と遠藤が言った。
「あっ、それいいかも知んない。遠藤さんが背広着たら試験官間違いなくビビってしまうぜ。絶対にその筋に見えちゃって運転手なんかに見えなくなってしまうもんな。でもそれで合格するかどうかは分からねえけどな。でも試験官に覚えてもらえる事は間違いねえよ」
山本が言う。男達が声を上げて笑う。
遠藤がダークスーツを着込んだ姿を皆が想像したみたいだ。
「しょうがねーよ、俺五年前までマジで族やってたからさ~。ビシッっと決めたらよけいに柄悪くなっちまうわな~」
遠藤が笑いながら答えた。
「俺も来週受けてみるわ。普段はなかなか休みが取れないけど来月は仕事が暇になるからな。来週受けて合格出来なかったら会社に相談して教習所に通うよ。今うちの会社ヘッドが空いているんだ。会社は車を遊ばせたく無いから、教習所代位出してくれると思うよ」
山本が言った。後ろの台車の事をトレーラーと呼ぶ。そしてどうやらトレーラーを牽引する車の事をヘッド(頭)と言うらしい。
「おれも来週受けます・・・だけどバックが思う様にいかないですよね~」
無口な中山がやっと口を開いた。角刈りで背丈は低いが筋肉質の身体だ。切れると恐いタイプである。目つきが鋭い。鋭い目つきで右隣の山本の方を見る。山本と同年代だ。
「そうなんだよ、ここのトレーラーはちょっとばかし、みじかすぎるんだよな。前進は何とか大丈夫だけどバックする時なんかグジャグジャになって、どうやったらいいか全く見当もつかないよ。何回も何回も通って車の感覚を掴まなければ絶対に合格は無理だよな。」
山本が答えた。
「ヨシ、俺ももう一回受ける事にするよ。これでは諦めきれねえよな」
パンチパーマの清水も受けるようだ。身長は高く痩せている。視線が落ち着かない。神経質そうだ。三十才位であろう。
皆それぞれ違う運送会社に勤めているので一人一人仕事の内容や待遇、それに会社の事情は違っているが、共通するのは皆の免許取得に対する前向きな情熱と車好きと言う事だ。
喜多村以外の全員が彼らの話に依ると車好きの元暴走族だった。車を改造したりその改造車で走ったりするのが大好きで、気が付いたらグループに入っていたと言う訳だ。ただ遠藤だけは少し違って、ちょっとだけ頑張って自分のグループを結成して頭をやっていた。就職は当然の様に車に縁のある運送会社となった訳だ。
そしてどうやらこの五人の中で紺のスーツ姿の喜多村だけが運転手でも元暴走族でもないけど、けん引免許実技試験に合格した様だ。