中野jazz-sweetrainの週末マスターのブログ

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東京JR中野駅近くのジャズ・スポット「SweetRain」のライヴ情報発信が中心です。時々、週末マスターの本業である経営コンサルティングの話題も投稿するかもです。

先日、Facebookでのジャムセッションについての投稿を読んでいて、ターゲティングと言うことについて考えを巡らせた。

 

ターゲティング、コンテンツ(商品サービス)、収益モデル、マーケットアプローチの4つは新規事業の重要な要素であり、その中でもターゲティングの重要性は高いとされている。

 

フィリップ・コトラーのSTP理論でも指摘されているように、ターゲティングのベースとなるのは、セグメンテーション(市場の細分化)であるが、では、ジャズ・クラヴというビジネスの市場をどのように細分化するかというと、そこには様々なやり方がある。もっとも基本的な視点である年齢や性別、世代等で細分化することもできるし、ニーズのあり方、例えばヘビーユーザー(月4回以上ジャズライヴに行く人)、ミドルユーザー(月1回)・・・ノンユーザー(行ったことがない)と言ったような細分化。この細分化の視点によって、ターゲティングの鋭さが全く違ってくる。

 

そして、結論から言うとSweetRainはセグメンテーションもターゲティングもおこなっていない。

敢えて言えば、すべての人がターゲットである。これは、私のよう経営コンサルタントの端くれから見れば無謀である。

店を始めるときには、自分の店ではないので気楽に「会員制にして、SweetRain のジャズ検定に合格した人だけが入れる店は?」とか、「ECMだけをかける店は?」とか、いろんなことをオーナーであるママに言ったのだが、「そんな店はすぐに潰れる」と完璧にスルーされた。

ただし、すべての人がターゲットというやり方が成功しているわけではないと思う。ママの目論見では、「ほんの少しジャズに興味があってふらっと入ってきたお客さんが、ジャズ・ライヴを好きになって固定客になる」といったものがあったようだが、15年の経験上そんなのは非常にレアケースである。それよりも、おしゃれなジャズ聴きながら楽しくお話ししようというようなカップルが途中で入ってきて、せっかくの親密なライヴの雰囲気が壊される方が遙かに多かったと思う。昔ながらのスイングするジャズを聴こうと思って店に入ったら、アバンギャルドなフリーインプロで途中で帰ってしまうというお客さんもいた。そういったお客さんは二度と来ない。

昔々、キャバクラのお姉さんを連れた5~6人組のお客さんが騒いでうるさいので、「他のお客様の迷惑になるのでお静かにお願いします」と注意したら、「客は俺たちしかいないじゃないか!」と言われたこともあった。今では、笑い話だが。

 

そう、ターゲットを絞らないと集客に苦戦するのである。

開店以来15年間苦戦の毎日である。

固定客がついてある程度の集客が見込めるミュージシャンもいるが、僕たちが大好きで素晴らしい演奏をするミュージシャンでもお客さんが入らない場合も多い。世の常であるが「より良いものが売れる」とは限らないのである。

そう、「集客は水物(当てにならないもの)」なのだ。マーケティング的に言えば集客は科学的に行うものであり「水物」であってはいけない。「この音楽のファンは、商圏エリアに何万人いて、その中の・・・%にリーチできれば、・・・人の集客が可能と予想される」と言ったものでなくてはならない。そのためにはターゲットの絞り込みと緻密なプロモーションが必要になる。そして、ある程度の集客が見込めるミュージシャンを中心にライヴスケジュールを組んでいくことになる。

 

しかし、それは我々がやりたい店ではないのである。集客が見込めそうなミュージシャンではなく、我々が素晴らしいと感じるミュージシャンをどんどんとブッキングしていきたいのだ。

我々がスイングジャズが好きだ!といった狭い音楽的な嗜好であればまだ良かったのだが、そうではなくてスイングからフリーインプロまで、好きと感じる範囲が非常に幅広い。そのために、店のブッキングは我々の感性にあったミュージシャンが無節操にカオスのように並ぶことになる。

しかし、15年もやっているとそこにある程度の共通したテイストというものが自然と浮き上がってくる。そして、そのテイストに共感してくれるお客さんが固定客となっていって、SweetRainの今の経営を支えてくれている。ありがたいことだ。

 

店を15年間見ていて(私は内部にいるが経営はしておらず、観察しているだけである)、私が経営コンサルタントとして思うことは、個人で始める事業はマーケットインではなくてプロダクトアウトのほうが楽しいと言うことだ。自分が価値を感じるものに共感してくれるお客さんを探していくプロセスが、本当のマーケティングであるような気がする。