jazz-lyrics.com

jazz-lyrics.com

ジャズ詩大全電子版

Amebaでブログを始めよう!
バーリンと結婚する少し前、エリン・マッキィは、父が自宅にウェールズ皇太子を迎えて開いたパーティで、皇太子とダンスをした。エリンはバーリンのことを話しつづけ、皇太子はあとで「僕と踊りながらほかの男の話しをしつづけた初めての女性だよ」と笑って周囲に話した。しかしこのダンスの最中に皇太子はエリンに取り引きを申し出た。それはエリンの父クラレンスは部屋が50もある邸宅に骨董品を無数に買い集めていて、父が皇太子をそれらの周遊行脚に連れ出すのは時間の問題だったから、皇太子はエリンがうまく父をはぐらかしてその退屈な周遊行脚から皇太子を救ってくれたら、お返しに食事のときに皇太子が父を話しでしばりつけて、エリンがバーリンに長電話する時間を稼いであげよう、というものだった。めでたく取り引きは成立し、二人は目的を達したとさ。

《ジャズ詩大全》別巻アーヴィング・バーリン編より
Copyright © Rikuo Murao. Powered by Jazz-Lyrics.com.
バーリンはピアノが弾けない、コードも判らない、楽譜が読めない書けないにもかかわらず、ヒット曲を次から次へと量産した。すると徐々に彼をとりまく周囲からある噂がたつようになった。それは彼が〝無名の黒人の若者 little nigger boy をかくまっていて、その若者が彼のためにそれらの曲を書いている〞というのだ。馬鹿げた根も葉もない噂だったが、逆に彼の才能が人びとの羨望を集めるほどに大きかったということだろう。

──バーリンが他のソングライターたちとあまり協調しないのは、一つには彼らの未発表の曲を聴くことで盗作のそしりを受けやすくなるという恐れからだった。もちろんウィル・アーウィンはそんな心配からはもっとも遠い人物だったが。それでも、バーリンは、彼の曲がだれかほかの人によって書かれているという過去の非難に、いつも悩まされているようだった。あるときアーウィンに曲を弾いているときに、バーリンはふとやめて「きみは黒人の若者の話しを聞いたことがあるかい?」と訊いた。それはつまり、彼のゴウスト・ライターのことを言っている。
「はい、聞いたことがあります」とアーウィンは認めた。

長い年月のあいだ書いてきた数多くのヒット曲を考えて、彼は「だとすれば、いったいどれほど多くの黒人の若者を僕がかくしもっていなければならなかったか、きみにも判るだろう?」

しかし落ちついた気分でいるときにはバーリンはやや素直になって、アーウィンが譜を書いていく能力に驚嘆して、「僕も勉強しなくちゃなあ」と言ったりした。

ただこの頃までには、この若い採譜屋さんは彼の非凡な曲の書き方に心酔する敬虔な信奉者になっていたので、こういうアドヴァイスをした、〝バーリンさん、僕はあなたを知ってからまだ長くありませんけど、あなたは少し劣等感をもちすぎているように思いますよ〞と。

《ジャズ詩大全》別巻アーヴィング・バーリン編より
Copyright © Rikuo Murao. Powered by Jazz-Lyrics.com.
ショウ【Yip! Yip! Yaphank】の初日に母リーアが来てくれたので、終わるとバーリンは母をブロンクスの家まで送りとどけた。車に乗ると、母は待ちかねたようにイディッシュ語で、彼が解放されたことへの驚きをアーヴィングにうちあけた。息子は母に説明を求めた、解放だって? 「そうよ」と母は答えた。「あんたを捕まえて肩の上に載せて運んでいたあのギャングたち全員からよ。それにしてもあんたいったいどうやって逃げてこれたんだい?」

《ジャズ詩大全》別巻アーヴィング・バーリン編より
Copyright © Rikuo Murao. Powered by Jazz-Lyrics.com.