★今日のベビメタ
本日2月25日は、2014年、「ギミチョコ!!」PVが公開され、2016年には、セカンドアルバム「METAL RESISTANCE」のTrailerが公開された日DEATH。

SABATONの「SHIROYAMA」（2016年『The Last Stand』収録）は、日本の西南戦争における「城山の戦い」を歌った曲である。
2018年、Darkside/Chosen Sevenのまっ只中、SABATONはSSAの「Darknight Carnival」に出演し、神戸WMHではBABYMETALのサポートアクトを務め、その後もBABYMETALのライブ開演前BGMにはこの曲が必ず流れるようになった。そして今やヨアキム・ブローデンがスクリーンでコサックダンスを踊る「Oh! MAJINAI」は、「汎ヨーロッパツアー」の大人気曲となっている。
BABYMETALにとって、ヨアキム・ブローデンは、メタリカやレッチリやジューダス・プリーストのロブ・ハルフォードと並ぶ大恩人である。

SABATONは、デビュー以来、歴史上実際に起こった戦争をテーマにして楽曲を創っている。『The Last Stand』には、紀元前480年少人数のスパルタ軍がアケメネス朝ペルシア帝国の大軍と戦ったテルモピュレーの戦いから、1527年の神聖ローマ皇帝カール5世によるローマ劫掠に立ち向かったスイス傭兵の戦い、近年のアフガン戦争、湾岸戦争まで、避けられなかった戦いに臨んだ兵士たちをテーマにした楽曲が収録されている。
「SHIROYAMA」もそのひとつ。
若いメイトさんに知って欲しいのは、そうした「世界史に残る戦い」の一つとしてヨアキムが選んだこの城山の戦いこそ、近代日本を創り、そのテーマは今でも日本という国の命運を握っているということである。
明治維新は、教科書で名場面として描かれる「勝海舟と西郷隆盛の江戸城無血開城」で終わったのではない。鳥羽・伏見の戦い、上野彰義隊の戦い、会津白虎隊の戦い、函館五稜郭の戦いなど、血みどろの戦闘が続き、明治政府が成立した後も、佐賀の乱（明治7年）、神風連の乱、秋月の乱、萩の乱（いずれも明治9年）など内戦状態が続いた。
西南戦争（明治10年）は、西郷隆盛という明治維新の立役者が、あろうことか自ら作った維新政府と、子どもの頃から兄弟のように育った大久保利通に反旗を翻した最後の内戦であり、城山の戦いはその最終戦だった。
いったい何が争いの元だったのか。
明治維新が、西欧列強のアジア侵略に対抗するために、日本の近代化を目指していたのは間違いない。だが、その方法論を巡って、大久保利通と西郷隆盛の間には大きな溝が生じた。
ヨーロッパ視察、とりわけ新興国家プロシアの政体に感銘を受けた大久保利通は、国民から等しく能力のある者を抜擢して組織し、効率的に運用する中央集権の太政官制＝官僚制を目指した。一人ひとりの人間は弱くても、適材適所に配して用いれば、総体として強い国になる。それが近代というものだ。これが大久保の考えだった。
しかし、西郷隆盛は、座右の銘を「敬天愛人」とするほど、東洋的な「正義」を国家の柱にしようとした。江戸時代には自己犠牲をいとわない「侍」が政治を担った。近代国家になっても、その魂＝サムライスピリットを継承すること。それが西郷の国家像だった。
とりわけ西郷の胸の裡にあったのは、シベリアに進出し、太平洋に出る不凍港を目指して極東、満州、朝鮮半島へと勢力を伸ばしていたロシア帝国の脅威だった。
西郷は自ら朝鮮に赴き、李氏朝鮮の大院君に会って共に戦うことを説き、それでもダメなら、戦闘力の高い武士たちを集めて朝鮮半島に進駐しようと主張した。これが「征韓論」である。
だが、大久保利通、木戸孝允、岩倉具視ら明治政府の重鎮たちは、まずはしっかりした統治機構を確立させ、富国強兵の実現を優先しようとした。
この対立によって、政権樹立からわずか5年、明治6年の政変によって、西郷は下野し、故郷鹿児島で逼塞することになる。
サムライスピリットの継承。それは美しい。だが西郷は人間性というものを理解していない。人間は善にも悪にもなる。すべての人間が、あるいは一人の人間が、生涯「正義」を貫き通すことは難しい。江戸時代の侍だって、理想はともかく、実際はそうではなかった。
新国家建設を進めていくには、誰でも等しく能力に応じて国のために働くことのできる仕組み―官僚による行政、司法、教育、郵便、鉄道、警察などの「制度」を次々に作っていく大久保のリアリズムの方が実現力をもっていた。
明治9年の秩禄処分と廃刀令によって、かつての武士＝士族の特権がなくなると、佐賀の乱、萩の乱、秋月の乱、神風連の乱といった不平士族の反乱が相次いで起こる。
人望のあった西郷に旧士族の期待が集まり、ついに明治10年（1877年）、西郷は決起する。
西郷にどのような戦略、勝算があったのかはわからない。反乱軍を仕切っていた桐野利秋らに担がれたというのが本質だろう。政府鎮台が置かれていた熊本城を奪取するために進軍を始め、2月20日、迎え撃つ鎮台軍との間に、戦闘が開始された。
３万人の薩摩軍の総大将は無敵の巨人西郷隆盛。主力は勇猛果敢な薩摩武士である。
薩摩武士の強さは、朝鮮出兵の頃から「鬼石曼子（しまんずー＝島津）」として恐れられるほどであり、鳥羽・伏見の戦い以来、戦闘経験も十分だった。西郷は前述したように、日本最強のその戦力をもって、朝鮮半島に渡り、南下してくるロシア帝国と戦おうとしていた。
対する政府軍は、近代的な装備と訓練を受けていたとはいえ、元農民、町人からなる「寄せ集めの軍隊」だった。西郷の姿を見るだけで、鎮台軍の兵士は恐れおののき、逃げだしたため、「またも負けたか鎮台軍」と囃されたという。
しかし、熊本城を守っていた土佐藩出身の谷干城は、坂本龍馬の弟子であり、西郷何するものぞと薩摩軍に包囲されても、決して屈せず、徹底抗戦した。
明治政府が凄かったのは、こうなることを予期し、鹿児島に置かれていた新式のスナイドル銃や弾薬の製造工場を1月に大阪へ移転していたことだ。
しかも、政府軍は「寄せ集めの軍隊」が弱いことを予め計算に入れ、戦況によって退却・転戦を柔軟に行った。圧倒的な戦闘力を持つ薩摩武士＝西郷軍が突撃してきたら、怖がって逃げてもよい。いったん引いても、陣容を整え、再度攻撃すればよいのだ。個々の力は弱くても、中央から送られてくる援軍や補給物資が尽きることはない。
これに対して、西郷軍は誇り高き薩摩隼人であり、一撃必殺の侍魂に燃えている。敵に背を向けることは怯懦を晒すことであり、恥だ。特にこの傾向は西郷自身に強かった。
地元の英雄だから支援者も多かったが、戦況が不利になれば物資も途絶えがちになる。
戦いが長期化する中、次々に増援される政府軍に対して、熊本城を囲み、大分まで戦線を拡大していた西郷軍は次第に押され、戦力を削られていく。熊本城をあきらめた西郷軍は、熊本の人吉盆地に籠るが、ここは戦略上守るのが難しい地形で、政府軍の猛攻の前に、ちりぢりになって宮崎の延岡に転戦する。
そこで西郷は、「寄せ集めの軍隊」の強さを思い知らされる。
あるとき、西郷軍がこもる山のふもとで、政府軍の工兵がぬかるみに土嚢を積んで、陣地を築いていた。それを見た西郷軍が威嚇射撃をしたが、工兵たちは黙々と作業を進め、攻略の足掛かりを作り上げてしまった。
これを見た西郷は、「あの兵士たちは自分たちより強いかもしれない」と悟ったという。
「寄せ集めの軍隊」でも、規律正しく、少しづつ準備を進め、有利な態勢を作って、飽くことなく攻め続ける。それによって自軍はじりじりと追い込まれていく。
日本最強の「侍」である西郷軍に勝てるなら、ロシアにも勝てる。であれば、「寄せ集めの軍隊」に自分の首をとらせ、「西郷に勝った」という自信をつけさせることが、この戦いの目的となる…。

延岡を追われ、険しい霧島山地を越えて鹿児島に帰着し、小高い城山に籠ったときには、3万人いた西郷軍はわずか372名になっていた。
城山を囲む政府軍は7万人。
さらに政府軍は錦江湾に軍艦を停泊させ、城山に長距離砲撃を浴びせる。
だが、かつて人斬り半次郎の異名をとった桐野利秋をはじめ、肉弾戦になれば薩摩武士は強い。西郷自身も政府軍の突撃による至近距離の銃撃を受けるまで切腹を拒んだ。それは政府軍に「西郷の首をとらせる」ためだった。
9月24日午前4時。股と腹に被弾した西郷は自刃。8ヶ月に及ぶ西南戦争は終結した。
「寄せ集めの軍隊」は当初、西郷の威容におびえ、島津侍の戦闘力を恐れた。だが、個々の力は弱くても、組織と戦略で戦う「寄せ集めの軍隊」は、徐々に戦況を有利に運び、ついに日本最強の侍集団に勝利した。
西南戦争は、西郷の政治的野心から起こった闘いではない。欧米列強のアジア侵略という事態に対して、日本がいかに戦うか、その路線を巡る戦いだった。
明治維新後、現在に至るまで、日本人同士が戦う内戦は起こっていない。
西南戦争、城山の戦いは、戦闘のリアル＝サムライスピリットを伝授する戦いでもあった。
なお、西南戦争終結の半年後、大久保利通もまた、紀尾井町で暗殺されている。
西郷からサムライスピリットを引き継いだ日本軍は、その後清に勝ち、ロシアに勝ち、イギリスやオランダやフランスを東南アジアから一掃し、広島・長崎に原爆を落とされてアメリカに敗れるまで不敗だった。
敗戦後、日本は官僚制によって見事に復興した。
今のぼくらがあるのはそのおかげである。
だが、そこにサムライスピリットはあったのか。官僚や政治家だけでなく、民間人であるぼくらは、命がけで国を守るサムライスピリットを継承しているのか。
遠くスウェーデンの地でヨアキム・ブローデンが「SHIROYAMA」のテーマにしたのは、そのことではないか。
ちなみに、厚生労働省の職員や検疫官が次々に新型ウイルスに感染しているのは、命がけといえるのか。確かに最前線で体を張って仕事してくれていることに、ぼくらはただ感謝するしかない。
だが、報道によれば、クルーズ船の仕事を終えた職員が、無症状だからといって検査さえせずに職場に復帰しているという。だとすればあまりにも無防備・無責任ではないか。

なぜ、自衛隊のように慎重かつ重防備で作業に当たらないのだろう。

かねてからぼくは、新型コロナウイルスは「死病」ではないと言ってきた。
ある程度感染者が広がっても、それ自体は大げさに騒ぎ立てるほどの「危機」ではないと考える。インフルエンザと同じく、罹患者を自宅待機させ、高齢者や重症者を手厚く治療する医療システムが維持されればよいのだ。
だが、これから最も重要なその任に当たる厚労省の職員に感染が広がり、自宅待機させなければならなくなったらどうするのか。
厚労省の責任者に、サムライスピリット＝「国を守る戦い」の意識が欠如しているのではないか。いや、大久保利通が、親友に指弾されつつ作り上げた「一人ひとりは弱くても、戦略と組織で最強の敵に勝つ」官僚制さえも劣化しているのではないか。
だとすれば、それこそ本当の日本の危機である。

ヨアキムの貢献