山崎雅弘著「新版 中東戦争全史」感想 | ジャワ・パンナコッタの雑記帳

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音楽(主にJazz)、書籍(主に歴史)、旅行などの感想を書きます。
2011年2月から約2年間、イギリスのリーズで派遣研究員として勉強したました。
イギリス生活のことや、旅行で訪れて撮りためた写真などを少しずつアップしていこうと思ってます。



元々、2001年に出版されていた本に、2001年以降、9.11、イラク戦争、イスラム国の膨張までを加筆したもの。

第一次世界大戦前後から現在まで、アラブ人とユダヤ人を中心に中東での紛争の歴史が、非常に淡々とした文体で、俯瞰的に語られている。最新のニュース、たまに掲載される新聞の解説記事、教科書で読んだ断片的な知識では得られない、一連の流れがきちんと追える良書。
歴史を学ぶって、こういうことだよね。と思う。

なにより、イスラム国の成立や欧米で頻発するテロといった近年の動きが、決してたまたま起こっている一過性のものではなく、イギリスやフランス、そしてアメリカやソ連(ロシア)などの大国に翻弄されながら、自らの生活環境や肉親の命を弄ばれてきたアラブ民族100年の怨讐の果ての行為だということが痛感させられる。

例えば、国を追われ、欧州に難民や移民として流れ着き、異なる文化、慣れない環境の中で生まれ育った彼ら(やその子供たち)にとっても、たとえ平和の中での最低限の生活、現地人と同じレベルの教育を受けさせてもらっているとしても、とらえ方によっては、それは所詮、偽善でしかない。
時に、高等教育を受けたアラブのエリートが強烈な反欧米の活動家になるのは、歴史を知れば知るほど、学べば学ぶほど、中近東で過去から現在まで繰り返される欧米列強の身勝手で場当たり的な行為に怒りを覚えざるを得ないからなのであろう。

テロは決して許すことのできない非道な行為である。が、同時に、彼らをテロに駆り立てるものが何か?それは、きちんと知っておいて無駄ではないと思う。

そして、新版のあとがきで語られる紛争の二重構造について。事態がエスカレートしていく構図が端的かつ見事に語られている。近年の日本を含む極東の動きを見ても、これは我々日本人にとっても決して他人事ではないことを肝に銘じておかなければならないだろう。

とても良い本であった。
【新版】中東戦争全史 (朝日文庫)/朝日新聞出版
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