こんにちは!ブログ管理者の角ねえですヒツジ
今回からはシリーズ4回、獣医学の先生のインタビューをご紹介したいと思います(^-^)/
ご紹介させていただく先生方は、動物感謝デーにご参加いただく予定だった方々です。


初回は、私も授業でお世話になっている、

東京大学 獣医薬理学研究室 堀 正敏准教授です。
広報係長角田とブース係の宮地でインタビューに行ってまいりました足あと


どんな先生?

東京生まれの東京育ち。日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)獣医学部修士課程修了(博士課程中退)
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児の父。


趣味は、、、

l 野球→現在東大獣医野球チームVetsに所属

l 釣り→釣って、さばいて、肴に。釣った魚でアニサキス中毒症になったときは自分で診断して治療しに行きました。

l サイエンス??→教授の勧めで大学院中退、就職の内定を蹴って東大薬理学研究室の助手になり、研究者としての道を歩む。



先生はどのような研究をされているのですか?

そもそも、ガチガチの基礎生物学、特に内臓を司る平滑筋細胞のバイオロジーと天然毒の生理活性作用解析を行っていました。ここ15年間くらいは、そういった研究をベースに、特に消化器の研究を中心に行っています。具体的には、消化管の運動の仕組みや消化管運動と消化管免疫・炎症応答の相互作用を中心にした消化器疾患の病態研究をしています。
 腸の生理機能は脳と同じくらい多くの神経伝達物質で制御されており、「第2の脳」とも呼ばれています。例えば、ヒドラという腸を持つが脳を持たない下等な生物でも、食べ物を口側から肛門側に運ぶ「蠕動運動」を行います。人や動物の腸を体外に取り出した場合にも、脳との連絡がないにもかかわらず消化管は自ら蠕動運動をします。これは、消化管壁に分布する感覚神経、筋間神経叢、カハール介在細胞が連携することによっておこります。食べ物が入ってきたことが感覚神経に伝わり、この刺激がカハール介在細胞というペースメーカーや興奮性や抑制性の筋間神経叢に伝達され、消化管平滑筋(内臓筋細胞)を動かし蠕動運動を行います。
 近年、消化管運動と脳機能との間には深い関係があることが解ってきました。脳がストレスなどの異常を感じると、腸もこれをキャッチし消化管運動が乱れます。逆に腹痛や下痢など消化管の異常は脳にストレスを与えます。皆さん、過度の緊張によりお腹が痛くなったりした経験をお持ちではないでしょうか?このように、消化管機能と脳機能は相互に影響しあうことが科学的に解ってきており、これを『脳-腸相関』と言います。この関係は、今まで原因が分からなかった胃腸障害など様々な症状に関わっているのではないかと考えられています。
 また、消化管を守る有益な化合物を見つける研究にも取り組んでいます。農学部という立地を生かして水産研究室や栄養化学の研究室と連携して、海洋資源や食品成分から消化管機能や消化管病態を改善する化合物の探索をしています。その成果として食品成分として米ぬかに含まれる化合物が腸の炎症を抑える効果があることを明らかにし、現在、家畜や人でのその実用化も目指した研究にも着手しています。



今までで一番印象に残っている出来事は何ですか?

東大に助手として赴任してまだまもないとき、当時手がけていた平滑筋細胞の収縮制御に関わる研究を一生懸命していました。そして、研究の成果が海外の雑誌に受理されそうになりました。しかし、受理の条件としてレフリーに3カ月以上はかかる追加実験を言い渡されました。年末が近づいてクリスマスまでも実験漬けの日々が続きました。研究室の他の仲間はその後ポツポツと帰省していく中実験は終わらず、とうとう他に残っているのは教授と私のみになってしまいました。その時、教授に“堀君、いいお正月を迎えようか”と言われ、30日の夜まで実験と英語論文の手直しを続け、31日に教授に漸く再投稿のOKをもらい、印刷した論文をエアメールとして本郷郵便局に持っていきました。当時、論文投稿はインターネットではなかったので、本郷郵便局では町の人達が皆年賀状を出しにきている中、一人海外郵便の大きな封筒を出しに行ったことを良く覚えています。
 再投稿した論文はレフリーの絶賛のコメント付きで年明け2週間くらいで無事に受理され、2つの論文が連続掲載の形で雑誌に載りました。その海外誌を図書館に見に行き、自分の二つの論文が連続して掲載されているのを見た時の喜びは今でも忘れられません。さらに、その年の夏、サンフランシスコの学会に参加しに行った際に、我々の研究分野の大物研究者にその二つの論文を読んだと声をかけられ、色々と質問をされたのも良い思い出です。ちなみに、その二つの論文はあわせて150回くらい他の論文に引用されており、今でも時々引用されています。
 研究は辛いけど楽しい。特殊な苦労をすれば、その分よろこびも倍増します。なにもかもほったらかして研究にのめり込むという時期が半年でも1年でも研究者には一度は必要なのかな、そしてそれが力になるのかな、と思います。


㊟・レフリー…論文が適切かどうか、雑誌投稿される前に23名の科学者によるチェックを受けます。様々な質問がなされたり、堀先生の場合のように追加実験が必要だと言われることも。レフリーが指摘した修正等に対応できなければ、投稿した論文は不採用になります。
 ・論文引用…今は情報社会!自分の出した論文が世界の誰が自分の論文を引用したか、これまでに何回引用されたかなどを検索することができる。独創性があって質が高い論文ほど世界中の研究者に引用され、以降の学術の発展に大きく寄与した証となります。



受験生・獣医学生に向けたメッセージを!

獣医=犬猫のお医者さんというイメージがありますが、獣医学はもっと幅の広い学問です。獣医学って何?ということを注意深く調べて受験しましょう!
 獣医学部、工学部などそれぞれの学問分野にはそれぞれの雰囲気があります。もちろん一人一人の性格は違いますが、トータルの雰囲気を見ると獣医など動物を扱う教員は、良い意味で人間味があり、悪く言えばのんびりしています。オープンキャンパスに行って教員や学生と触れ合ったり、獣医学生のイベントに参加したりして、肌で感じてみてください。






資料:

獣医学生奮闘記!@動物感謝デー-カハールの介在細胞
小腸の運動を司る消化管筋層部の構造

管状の小腸片を切開し、シート状にした後、粘膜部を剥いで消化管筋層部だけにした組織を固定し、抗体をつかって免疫染色した顕微鏡像。

黒く何も染まっていないところが平滑筋細胞の分布しているところ。この平滑筋細胞の間を縫うように、壁内神経叢ネットワーク(赤)が格子状に分布している。そしてそれに絡むように細いネットワークを作っているのがペースメーカー細胞であるカハールの介在細胞(緑)で、自発的に律動性の興奮を繰り返している。さらに、同じ部位には黄色で示すようなマクロファージという免疫担当細胞が常在している。消化管が感染症や腹腔開腹手術などにより炎症を引き起こすと、このマクロファージが病態発生に重要な役割を担う。


獣医学生奮闘記!@動物感謝デー-堀先生先生のプロフィール:

東京大学 大学院農学生命科学研究科

獣医薬理学研究室 准教授


堀 正敏(ほり まさとし)



堀先生、研究者らしいお話ありがとうございました!!
消化器官って結構奥深いんですね。『脳-腸相関』って、とっても興味深いです(^∇^)


次回は、、、
山口大学 公衆衛生研究室 清水 隆准教授のインタビューをご紹介いたします音譜