水木作品によく登場する四角い顔で、メガネに出っ歯の男は、桜井昌一さんがモデルであるという事がよく知られています。いろいろな作品に出てきますが、風采のあがらないサラリーマンや町人、あるいは貧乏なお百姓という、いずれもあまり良い役ではなく、失敗したり、被害を受ける事が多いようです。努力しても報われず、「なんでこうなるの?」という感じで発する「ふはっ!」というため息が印象的でした。
 
水木先生自身がご自分の境遇を映されているのかもしれませんが、もしかしたら、出版でがんばる桜井さんのイメージも投影されたのかもしれません。
 
今私の手元には、桜井さんの東考社が最後の方に出版した、桜井文庫というものが結構たくさんあります。その多くは水木先生の貸本時代の作品の復刻で、戦記物のほか、兎月書房版の河童の三平、第三巻で終わった悪魔くんなども含まれています。今やとても貴重なものです。この文庫は、はじめはなかなか立派な装丁で、限定出版(600部くらい)だったのですが、しだいにぺらぺらの紙になっていき、最後の方では、わら半紙のような紙に簡単な軽オフ印刷されたような素朴なものになっていきます。見ようによっては、同人誌の方が立派に見えてしまうくらい素朴なものでした。
 
できるだけ安い紙でコストを抑えたのでしょうか?懸命にがんばられた様子が痛いほど伝わってきます。当時の桜井さんのご苦労がにじむ労作です。朝のドラマの戌井氏の姿を桜井さんに重ね合わせ、桜井文庫を眺めると思わず、胸がじーんとしてしまいます。ゲゲゲの女房を桜井さんに見ていただきたかったですね。どのように感じられるでしょう?(続く)