話を学生時代のバンド活動に戻す。もう時効なので書いてもいいだろう。

実は私のバンドは下手くそだった。大学に入ってから楽器を始めたやつが大半で自分のパートをなぞるだけで精一杯。合奏する余裕がないため演奏はバラバラでたぶんかなりひどいものだったと思う。

恐いのは、下手の割りに人に聞かせたがる癖があって大胆にもコンサートなるものを開催したりするのだ。手作りのキップをガリ版で印刷し有料で配ったりしていた。もっとも、会場費、PAやアンプのレンタル料などがかかるので、いつもひどい赤字でコンサート当日に不足分を徴収されるのが常だった。

そのわりに協力者(といってもメンバーの妹さんや彼女だが)がいて、いろいろ手伝ってくれるのだ。まあ、下手なりにコンサートが終わるとささやかな達成感があり、打ち上げなどで盛り上がったものだ。

ただし、今でも恥ずかしくて思い出したくない経験は多い。特に恥ずかしかったのは、メンバーの実家がある田舎でやったコンサートだ。彼の卒業した小学校の体育館を借りて会場としたのだが、彼の妹さんが町中の楽器屋さん本屋さんなどのスポットにポスターを貼って宣伝したため、ロックバンドの生演奏を聴いたことがない町の若者たちがたくさん集まってしまったのだ。我々は前の晩からそのメンバーの家に泊まっていたのだが、町を歩くと若者が明日のコンサートについて「明日行く?」なんて言って話をしているのだ。

さて当日。沢山の人が集まってしまった!
まずは地元の高校生達のバンドが前座で登場し、キャロルなどを演奏した。そして、いよいよわがバンド登場。ところが。。一曲目、二曲目と演奏が進んでいくたびにお客さんが次々に帰っていくのだ。
こちらは何が起こっているかぜんぜんわからない。ただ演奏するしかない。とうとう、最後には数人だけが残り、しかも体育館の後ろのすみで車座になって談笑しているのだ。もちろん演奏を聴いているわけがない。結局わけがわからないままに最後の演奏を終え。逃げるように舞台から降りた。車座の連中からはひやかしで「アンコール!」という声がかかる。いっそういたたまれない気持ちになった。

後で事情がわかったのだが、リハーサルで調整していたミキサー(各マイクのボリュームを調整する。それぞれのパートの音の大きさのバランスなどを調整するもの。)を前座のバンドが勝手にいじって、自分達の楽器のバランスにしてしまっていたのだ。このため、我々のパートの音のバランスはめちゃくちゃ。
後で演奏を録音したテープを聴いたが、爆弾のような音のドラムが聞こえるだけだった。たまに、キーボードがゴジラの鳴き声のように破裂音を出している。鼓膜が破れそうで確かに帰りたくなるものだった。

我々は隠れるようにその町を去ったが、地元出身の彼はしばらく町を歩けなかったそうである。

帰ってきた次の日、早速メンバーが集まる事になった。みんな鎮痛な表情である。いよいよ解散か!と思ったら、次の瞬間、ひとりのメンバーが「今度のコンサートの会場を予約したぜ!」とほざくのだ。。。

まったくめげない、すごいバンドだった。