昔の柔道部のお話です。

私がいた高校は戦前は柔道が大変強く、全国大会で一回優勝したほどでした。
でも、しだいに弱体化し私が入学した頃はそれほど強くはありませんでしたが、伝統校ということで秘伝のたれのような風習はちょっと残っていました。もっとも、どのくらい昔から続いていたものかは誰も知りません。意味もわからず、ただなんとなく大事かもしれないとの思いから続けていたのかもしれません。

たとえば、柔道部には歓迎の儀式というものがありました。というかこれを経験しないと仲間じゃないといったものです。

入学したてで、まだ軽い稽古しか課せられずちやほやされていた新入部員達が、ある日先輩の一人から、ちょっと集まれといわれ道場の片隅に集められるところから儀式は始まります。その先輩は、「これから、身体の柔らかさを調べるので畳の上に足を伸ばして座れ。」というので、新入部員達はみんなそのとおりにします。それから、他の先輩部員達がひとりずつ柔道着の帯で新入部員の手を縛ります。二本の腕がつながり輪ができます。

新入部員は一体何が始まるか想像もつきません。仕切っている先輩が「身体の柔らかさを調べるので、よしっと言ったら、腕でできた輪の中に両方の足を入れろ!よし!」というので、新入部員達はあわてて自分の足を腕の輪に通します。次に「頭を膝の方に近づけて丸くなれ!」と言われ、みんなそのおりにしてじっとしています。頭を膝につけているので廻りがよく見えません。

ひと呼吸おいて「それっ!!」と言う掛け声とともに、先輩部員達が丸くなった新入部員をころころと転がし始めます。道場中で大騒ぎしながら人間玉転がしが始まるのです。新入部員は、一体何が始まったのか全く理解できません。ただ、先輩たちに好き勝手に転がされるのに身を任すしかないのです。

しばらくして、「やめ!」という掛け声とともに、先輩たちが後輩の腕を縛った帯を解いてやります。新入部員達は、まだポカーンとしています。喜んでいるのは先輩達だけです。

これが、わが柔道部の歓迎式でした。くだらないといえばくだらないのですが、毎年これをやっていました。中には泣いてしまう部員もいました。きっと、屈辱的だと思ったのでしょう。でも彼も次の年は、結構喜んで後輩を転がしていました。

だいぶ後になって、小林まこと先生の「柔道部物語」という漫画でも歓迎の儀式のようなものが描かれていましたが、どこの運動部でも似たようなものがあるのかもしれませんね。(続く)