悲しい別れをした犬たち④【ポール】 | マリリンの独り言

マリリンの独り言

ほんの些細な日常の出来事や、面白エピソード、我が家の動物達の話、ハンドメイド作品の話などを気ままに綴ります。

時々毒吐き。
クズ男やモラ男の話、人間関係についても書いています。

夫婦間だけの呼び名は
『プニ』『プニちゃん』


ラッキーとの別れがあった後、ペットショップに長居することは無くなったが、姉の家には変わらず遊びに行っていた。


ある時、私は何代目かのハムスターを買いにペットショップに寄ることにしたのだが、姉がペットショップの向かいの洋服屋に行くと言って私と一緒に家を出た。


私はいつも買い物をする時に時間を掛ける。

それが生きものなら尚更だ。

ハムスターを選ぶ時も、健康状態のチェックをしたり、どの子を選ぶか迷ったので時間が掛かったが、結局この時は購入しなかった。

姉の方が先に終わり、ペットショップにいる私の元へやって来た。


そして姉もショップの犬を眺め始めたのだ。

姉「可愛いなぁー!」

私「うん、可愛い♪」

ポメラニアンの子犬をガラス越しに見ながら話す。


「この犬、買うわ。
家にお金取りに行って来る」


(え·····!?)


ちょっと待って!
犬を迎える準備も何もしてないやんか!

そもそも姉は犬を飼ったことも、世話をしたこともない。
もちろん飼育や医療に関する知識も。

それにヨークシャーテリアが好きだから、飼うとしたらヨーキーがいいと言っていたのに、ポメラニアンの特徴も把握しないまま飼うの!?


完全に衝動買いだった


私は学費を貯めながら、必死に犬を買う費用のためにバイトをしていたが、姉は水商売をしていたので、現金でポン!と何でも買える。


私が止めても無理だろう。


姉は自宅にお金を取りに帰り、その場で直ぐにポメラニアンの子犬を購入した。





ラッキーのことがあってから、ショップの人達は私を心配していたそうだ。

姉が購入手続きをしている間、私が子犬を抱いていたのだが、皆が口を揃えて
「良かったな~!やっと犬が飼えて。
おめでとう!」
と言う。

お爺さんにも
「この子は絶対に犬を飼うべきやと思ってたんや。
ほんま良かったな♪」
と言われた。


「いや·····私の犬じゃないんです」


言葉にしたけれど、盛り上がってて誰も聞いてくれない。

まぁいいかと思い、子犬を連れて姉の家に戻った。




子犬はポメラニアンのオスで、ポールと名付けられた。

ポールとの生活は突然始まったので、私は姉に幾つかの注意点を話した。


直ぐに掛かり付け医を見付けること。

ポールはまだワクチンを1回しか接種していないので、病院に連れて行ったら時期を見て2回目以降のワクチンを必ず受けさせること。

何にせよ姉は犬の飼育に関しては初心者なので、餌のやり方や被毛の手入れの仕方など基本中の基本と言える内容も説明した。


ポールは穏やかな性格をしていた。

直ぐに懐いて、私の足元を付いて離れない。

週末しか会いに来れないのが残念で仕方なかった。





ある日、姉から電話があった。

ポールが下痢をしていると言う。

私はポールの様子と、便の状態を姉に聞いた。
そして直ぐにでも病院へ連れて行くように忠告したのだった。


次の土曜日、私は急いで姉の家に向かった。

1DKのマンションの玄関を入ると、真っ先に私の目に飛び込んで来たのは、ダイニングの板の間に何も敷かれず直に横たわったポールの姿だった。


体を起こすことも出来ない。

しかしポールは、私に気付くと動かせない体のままで、目だけこちらを見てピコピコと力なく尻尾を振ったのだ。


私は悲しみと怒りが混じり合った複雑な気持ちになった。


ポールを板の間に放置したまま、姉は奥の部屋でテレビを観ていた。


私はポールの頭をそっと撫でた後、姉がいる部屋へ行った。


「病院は!?連れて行ったん!?」

私は怒っていた。

姉はポールを病院へは連れて行っていなかった。

「なんで!?直ぐに病院に
行くよう言うたやろ!」


ポールはタール状の血便をしていた。

これは命に関わる病気だ。
子犬なら死亡率も高い。
 

「だって動物病院、
何処にあるか知らんもん·····」


姉の無責任な発言に構っている暇はなかった。
私は急いでポールを連れ出し、姉と一緒にタクシーに乗って、普段から行っている動物病院まで向かった。


結果、ポールはパルボウイルス感染症を患っていた。
そしてそのまま入院となったのだ。





ポールが入院して2日後、姉から電話が掛かって来た。

ポールが亡くなったと、病院から連絡があったと言う。


やはり手遅れだった·····


姉は病院側の落ち度だと言った。 

「ポールちゃん、亡くなりました」
と簡単に済まされたと腹を立てていた。


あの状態で、病院側が何を出来ると言うのだろう。
パルボウイルス感染症は、コロリと死んでしまうことから別名『コロリ病』とも呼ばれ、子犬ならば8割9割方死亡に至る恐ろしい病気なのだ。


2回目以降のワクチンにも連れて行かず、症状が出てからも直ぐに病院へ行かずに放置していたのは誰!?

責めるなら、病院ではなく自分自身にではないのか?と私は思った。





私が動物霊園を教えてあげて、そこでポールのお葬式をした。

姉は泣いていた。

ポールと過ごした僅かな期間に、どれだけの愛情を注いでいたのだろう。

早くに消えた小さな命の灯火。
1人で苦しんで辛かったよね·····
寂しかったよね·····


ポールの火葬を済ませ、次の週に初七日法要で会う約束をして姉と別れた。


そしてポールの初七日の日·····




姉は来なかった。

それが全てだ。
それが答えなのだろう。


玩具やアクセサリーとして、生きものを飼うべきではない。

衝動買いをすると、何処かで躓くものだ。



私は生きものとの出会いと別れを、全て記憶しておくようにしている。

道端で轢かれてしまった猫やハトでさえも。

誰にも記憶されていない魂の存在を、この世にこの姿で生きていた軌跡を、私だけでも覚えていてあげたいから。



ポールがやって来た日、ポールが旅たった日·····
私は今でも覚えているけれど、きっと姉の記憶の中では、ポールの存在自体が消えてしまっているだろう。


ポールの件ではないが、私は姉に
「お姉ちゃんは、動物を飼う資格が無い」
と言ったことがあるのだそう。


小学生の時なのか中学生の時なのかは不明だが、子どもである私に大人である姉が説教されたと、姉に言われたことがある。


それに関しては覚えていなかったのだが、何度でも同じことは言えると思う。

これに懲りて、姉も今後は犬を飼うことをしないだろう。


そう思っていた。
そう信じていた。

あの時までは·····


雪の結晶雪の結晶雪の結晶雪の結晶雪の結晶雪の結晶雪の結晶雪の結晶雪の結晶雪の結晶雪の結晶雪の結晶雪の結晶雪の結晶雪の結晶雪の結晶雪の結晶雪の結晶雪の結晶雪の結晶

🔴次回は
『悲しい別れをした犬たち⑤シルバー』
の予定です。
🔵今回のポール編ラストの続きは
『悲しい別れをした犬たち⑥エルデ』
の後の
『悲しい別れをした犬たち⑦ヒロ』
で書きます。