目次


  1. 年内入試が拡大しているという「大学入試全体の話」

  2. その話を医学部に当てはめてはいけない理由

  3. 私立医学部31校の現実|総合型選抜はごく一部・超少人数

  4. 推薦入試も「ある=取りやすい」ではない

  5. 年内入試の評価軸が、医学部だけは根本的に違う

  6. 「学生確保に苦労している大学もある」という議論の落とし穴

  7. 私立医学部の年内入試で本当に問われているもの

  8. まとめ|大学入試の流行語で医学部戦略を立てない


1. 年内入試が拡大しているという「大学入試全体の話」

ここ数年、大学入試に関する情報発信では
「総合型選抜・学校推薦型選抜が拡大している」
「私立大学では入学者の半数以上が年内入試で決まっている」
といった話題を目にしない日はありません。

実際、少子化の進行や志願者の分散を背景に、地方の大学や小規模の大学を中心に大学側が年内で学生を確保したいと考える流れは強まっています。
定員充足に課題を抱える大学・学部では、年内入試を厚く設計することで早期に入学者を囲い込むケースも増えています。

この「大学入試全体」の文脈だけを見ると、

年内入試=チャンスが多い
推薦・総合型=一般より有利

と感じるのは、ある意味自然なことかもしれません。

しかし、ここで一度立ち止まる必要があります。


2. その話を医学部に当てはめてはいけない理由

結論から言えば、
大学入試全体のトレンドと、医学部入試の現実は、同一視してはいけません。

理由は単純です。

医学部は

  • 医師国家試験が待ち受けている

  • 学習負荷が極めて高い(4年では足りない)

  • 大学側に「医師養成の質」を担保する責任がある

という、他学部とは根本的に異なる性質を持っています。

そのため、同じ「総合型選抜」「学校推薦型選抜」という名称であっても、
中身は別物になりやすいのです。


3. 私立医学部31校の現実|総合型選抜はごく一部・超少人数

まず数字の話から確認しましょう。

私立医学部は全国で31校あります。
この31校すべてが、総合型選抜(旧AO)を積極的に実施しているかというと、答えは明確に「NO」です。

実際には、

  • 総合型選抜を実施している大学は一部に限られる

  • さらに募集人員は極めて少ない

というのが現実です。

具体例:獨協医科大学の総合型選抜

獨協医科大学の総合型選抜では、
募集人員は「3名以内」と明示されています。

この「3名以内」という数字は象徴的です。

一般学部でよく見られる
「総合型で数十名」「学部定員の2~3割」
といった世界観とは、完全に別次元です。


4. 推薦入試も「ある=取りやすい」ではない

次に、学校推薦型選抜(推薦入試)についてです。

私立医学部でも、確かに推薦入試を実施している大学はあります。
しかし、ここにも大きな誤解が生まれやすいポイントがあります。

推薦入試の実態

  • 指定校推薦

  • 附属・系列校推薦

  • 同窓子女・地域枠

  • 公募制推薦

これらが同じ「推薦」という言葉で一括りにされていることが多いのです。

受験生・保護者がイメージする
「誰でも狙える推薦枠」
は、実際には非常に限られています。

具体例:日本大学医学部

日本大学医学部の学校推薦型選抜(公募制)では、
募集人員は5名とされています。

医学部受験の世界では、
5名という数字は「チャンスが多い」どころか、
極めて競争の濃い枠です。

 

募集人員8名の関西医科大学推薦一般枠には268名が志願し倍率は33.5倍でした。

近畿大学医学部の推薦入試も26.8倍でした。

 

「推薦入試は入りやすい」は医学部には全く通用しない話です。


5. 年内入試の評価軸が、医学部だけは根本的に違う

一般学部の年内入試では、しばしば次のような設計が見られます。

  • 志望理由書・活動報告が中心

  • 探究活動や課外活動を重視

  • 学力試験は行わない、または軽い確認程度

ところが、私立医学部は違います。

私立医学部の年内入試の本質

私立医学部では、年内入試であっても

  • 学力

  • 思考力

  • 論理性

  • 面接での受け答えの質

といった「医学生としてやっていけるか」という能力評価が強く働きます。

実際、推薦入試であっても総合型選抜であっても

  • 基礎学力検査(基礎とあっても難しい)

  • 医学的テーマを含む小論文
    が課される大学が一般的です。

学力試験が無くても、能力を試す筆記試験は必ず行われます。

「書類が良ければ学力は二の次」
という一般論は、医学部には当てはまらないのです。


6. 「学生確保に苦労している大学もある」という議論の落とし穴

大学入試全体の議論では、
「学生確保が厳しくなっている大学もある」
という話がよく出てきます。

しかし、ここにも注意が必要です。

同じ大学の中でも、医学部は別枠で考えられていることが多い。

  • 医学部は志望動機が強い

  • 学費が高くても多くの志願者が集まる

  • 多くの受験生が殺到する状況では「質の担保」が優先される

そのため、
「学生確保のために年内で大量に取る」
という発想が、医学部では全く無いのです。


7. 私立医学部の年内入試で本当に問われているもの

では、私立医学部の推薦・総合型で合格する受験生は、何が違うのでしょうか。

共通点は次の3つです。

  1. 学力が前提として仕上がっている
    年内入試でも、一般入試を見据えた学力水準に達している。

  2. 志望理由が「学力・経験」と結びついている
    活動実績の派手さではなく、
    「医学部で伸びる再現性」が説明できる。

  3. 面接で論理的に話せる
    感情論ではなく、
    医師という職業への現実的理解がある。

年内入試だからといって、
「楽に決めるルート」ではないのです。


8. まとめ|大学入試の流行語で医学部戦略を立てない

最後に、この記事の要点をまとめます。

  • 大学入試全体では年内入試が拡大している

  • しかし私立医学部では、総合型・推薦の枠は極めて小さい

  • 「推薦がある」「総合型がある」=チャンスが広い、ではない

  • 年内入試でも、私立医学部は完全に学力・能力勝負

い多くの塾や予備校、特に学校推薦型選抜(推薦入試)や総合型選抜(AO入試)に
特化した塾・予備校が「年内入試で憧れの大学へ」とやっていますが、それは文系学部などの話です。
 

大学入試全体の話と、医学部入試の話を同一視しないこと。
これが、私立医学部受験で遠回りしないための、最も重要な視点です。