オペラカンパニーの歌手養成プログラムが再開されて週に一度トレーニングを受けている。

政府の規則に従って一度に5人までマスクを外して歌うことが出来る。もちろん2、3メートル離れて。指導者とピアニストはマスクを外すことはない。

コミュニティレベルでの感染がなくなっても5人以上で歌うことは出来ずに、オペラカンパニーのコーラスは人数を制限してリハーサルを開始した。シンガポールは慎重だ。

規制があっても週に一度プログラムの仲間たちと歌が歌えるのは幸せなことで普段の練習の成果を試すと同時に他の歌手から刺激も受ける。

去年、一昨年と違って平均年齢が上がり、成熟した声の歌手と一緒に歌うのは楽しい。

オペラ、ドン・ジョバンニが予定より一年近く延期になって本当に良かったと思う。ドン・ジョバンニに騙されて一度は彼と結婚したと思っていたドンナ・エルヴィラは予想以上に大変な役で、コロナ禍の延期がなければひどい舞台に終わっていただろう。

新しい先生について昨年末から歌うテクニックを大幅に変えて来たが、じっくりと取り組み身体に浸透させるのは時間がかかる。気付いたらもう10月も末、しかし今年は楽しく自分の声と向き合ってきたことだなあ。

もちろん自由に歌って音楽を楽しむことも大事だが、少しずつ新しいテクニックを身体に染み入らせて声を変えて行くことはそれ以上にずっと楽しいと思う。

クラシック音楽やオペラでは『声(楽器)』よりもそれをどう使って表現するかの方に重点があってそれが奥深さの一部であり、人が一生をかけて取り組んで行くだけの価値があるものだ。

「でもこの歌い方を早くから知っていれば状況はずっと違うものだったんじゃないの?」
と歌の先生ウェンディに言われて、思った。

この歌い方を知っていたとしても、若い頃の私には本当の価値が分からずに少し練習してすぐ放り出して次に興味あるものに移っていただろう。

それくらい若い頃の私にはスピードが大事だった。少し器用なのと多くのものに興味があったのとで、とにかくどんどん物事をこなしてみせたかった。

今は声と歌にじっくり取り組んで幸せな毎日を送っている。その上ドン・ジョバンニという大好きなオペラに携わっている。もう既にあったすごい幸せに気付いてしまった。