(6)衣・食・住
既に述べた「常温核融合発電装置」や「導電性高分子電池(蓄電技術)」の普及は電気の“自産自消”を可能にしますが、これに無人電気自動車などによる「輸送コストの激減」が加わることで、波及効果は「衣・食・住」すべての分野に及ぶことが期待されます。
このうち、まず「食」に関わるものとして「植物生産工場」の設置、普及が挙げられます。
一般的な畑で栽培する「露地栽培」に対し、ビニールハウスや温室を用いるのを「施設栽培」、化学肥料や農薬の代わりに有機肥料や天然由来の無機物を用いるものを「有機栽培」、施設内で土の代わりに養液を用いる「水耕栽培」などがあります。
しかし、「植物生産工場」は、施設内での植物の生育を制御しながらモニタリングをし、高度な環境制御と生育予測を行う、野菜等の植物の周年生産や計画生産を可能にする栽培方法です。
「植物生産工場」の中でも閉鎖環境でLEDや蛍光灯などを使い、太陽光を一切使わない「完全人工光型」では、クリーンルームとして運用して害虫や細菌を完全に遮断できるため、無農薬栽培が可能となるほか、水耕養液や温度、二酸化炭素濃度などをコントロールできるため、
❶生育期間を大幅に短縮し多期栽培ができる、❷収量を最大化できる、❸ストレスがないため味も見た目も良い、❹味、食感、鮮度などの日保ちが露地栽培の数倍に及ぶ、❺品質、大きさ、形、色、収量のバラツキがなくなる、❻天候不順や異常気象の影響を受けない、❼貴公、地形、地域に関係なく全国どこでも設置ができる、❽耕したり、雑草を抜いたり
間引きをしたり、水や肥料をやったりする手間がかからない、❾特定の栄養素や成分を増減した機能性野菜が作れる、などのメリットがあります。
目下のデメリットとは光源と熱源、その冷却と空調に費やす電気代ですが、これは前述した常温核融合装置と導電性高分子電池で大幅に抑制できます。
植物生産工場の先進国はオランダで、国土面積は九州程度ですが農産物の輸出額は世界第二位で、第一位の米国の70%に及びますが、日本でも2009年12月閣議決定の「新成長戦略」で採用されました。
また今後、超次世代スパコンなどを用いて大出力の人工光源が開発されれば、米や小麦などの穀物も生産可能となり、実際、オーストラリアでは米の三期作や四期作が行なわれており、実験段階では十二期作も可能となっています。
平成二十五年の日本の耕地面積は四五四万ヘクタールで、このうち水田が二四七万ヘクタールで54%を占めています。
ところが、例えば、パナソニックが手掛ける植物生産工場などの場合、狭い土地でも立体的に積み上げることで作付け面積が確保できます。
野菜の場合は30~40センチメートル、稲の場合は1メートルの高さで積み上げることができ、こうすることで空いた農地を宅地にすることで都市部周辺での住宅地拡大と地価の引き下げも可能となり、大都市部への一極集中解消の一助となりそうです。
一方、衣類の原料である繊維は現在、主に麻、綿花、ジュートなどですが、これらは植物生産工場からタダで供給可能となります。
多方、世界では今、乱獲による魚介類などの海洋資源の枯渇が問題となっています。しかし近年、多くの魚介類の養殖技術が急速に進歩して、2002年にはクロマグロの完全養殖が実現(近大マグロ)。さらに、大豆などの植物性蛋白質でも生育が可能となっています。
これに植物生産工場のノウハウを生かし、必要な栄養分を潤沢に含んだ「好適循環水」を使った、陸上での「閉鎖循環式陸上養殖」により現在、マダイ、ヒラメ、トラフグ、シマアジ、クエなどでも養殖が始まっています。
加えて近年、和牛と味や風味、食感がほとんど変わらない合成肉ができ、あとはコストの問題だけとなっています。
(7)ゲノム編集(遺伝子工学)
超次世代スパコンは「BT(バイオテクノロジー)」の分野でも大きな技術進歩をもたらしつつあります。
まず、BT(バイオテクノロジー)とは、生物を工学的見地から研究し応用する技術で、近年は特に遺伝子組み換え・細胞融合などの技術を利用して品種改良を行い、医薬品・食糧などの生産や環境の浄化などに応用されています。ここではこのうち、DNAをコンピュータのコードのように書き換える遺伝子操作に関わるテーマを中心に扱います。
DNAの中には、私たちの両親や先祖から引き継ぐ、私たちを自分たらしめる個性を作り出す特定の指令ともいうべきプログラムが存在します。ただ、その中には特定の疾病を発症させる“負の遺産”や、逆に特定の疾病を防ぐ因子の欠如もあり、これらを編集してDNAを適切な配列に戻してやれば疾病を防ぐことが合できますが、これが「ゲノム編集」です。
このような「ヒトゲノムプロジェクト」は1984年にが開始され、現在では100ドルで自分のDNAを全体の基準値と比較して異常を発見し、ガン、血友病、パーキンソン病などの早期発見で、診断後五年生存率90パーセントを実現しています。
さらに生存率を引き上げるためには、自分個人の完全なDNAシーケンス(塩基配列)を入手するとともに、実際の人体における形態や臓器の機能、脳や神経との関係などをタンパク質レベル、代謝レベルでシュミレーションしなければなりませんが、今後のコンピュータの急速な進化がこれを可能にし、しかも現状では1万ドルかかるところを、2025年には10ドル、それも数秒でできると予測されています。
なお、遺伝子操作は、一つの植物種から別の種への遺伝子移転を可能にするため新しい、あるいは、より良い性質を持つ植物の生産、それも早期かつ大量の生産を実現するため、今後予測される十五~二十年後の世界的な食糧危機への解決策として期待されています。
が、例えば、米国モンサントのような企業に対する批判にあるように、物事の便利さの裏にはリスクが伴い、悪意を持った操作に対しては厳格な監視体制が必要なのは言うまでもありません。
(8)クローン技術
ちなみに、遺伝的に同一の個体を作製する「クローン技術」については、乳量が多く飼料効率に優れた乳牛や、肉質が良く飼料効率に優れた肉牛の大量生産などの畜産事業、農作物、園芸物への利用、さらには医療実験で使われる同じ遺伝子を持った動物の大量生産、遺伝子組換え技術との組み合わせによる医薬品(タンパク質)の大量製造、悪化した臓器や身体部位再生の手段、絶滅の危機に瀕している希少動物の保護などへの利用が可能とされています。
クローン技術には、受精後発生初期の胚の細胞を用いる方法(受精卵クローン技術)と、皮膚や筋肉などの体細胞を用いる方法があります。
前者では、受精後5~6日目で16~32細胞へと分裂した受精卵(胚)をひとつひとつの細胞(割球)に分け、後者では、クローンを作出したい牛の皮膚や筋肉などの体細胞を培養、ドナー細胞として、それぞれをレシピエント卵子へ核移植・細胞融合して培養した後、仮親牛へ移植・受胎させ、お互いにクローンである牛を作製します。
このようなクローン技術は、人工的に一卵性双生児や三つ子を産ませる技術といえ、日本でも1990(平成2)年に牛の“クローン受精卵”の誕生に成功。そして1997年、スコットランドで完全なクローン羊“ドリー”が誕生しました。
しかし、倫理的な問題からクローン人間作成が禁止されたことからその後22年、クローン作製の成功率はいまだに低いままだと“公式”には言われています。
が、研究を進めることでパーキンソン病、多発性硬化症、心臓病、脊髄損傷など現在の医療技術では再生不可能な課題解決に繋がる可能性があり、先進各国では研究が密かに進められていると言われています。
(9)寿命を延ばす「テロメア」の発見
一方、私たちの遺伝子で成り立つ37兆個の細胞は常に分裂し、入れ代わり続けています。この細胞分裂に深く関わっているのが染色体の端にある「テロメア」です。
塩基という化学物質でできているテロメアは、通常、細胞分裂のたびに数が減っていき、生まれた時は約1万5,000あるのが35歳で半分に減少し、6,000を下回ると染色体が不安定になり、さらに2,000になると細胞分裂できなくなる細胞老化に陥ります。
また、心理的なストレスがテロメアの減り方を早めていることも解明され、例えば、悪いことをすぐ連想してしまう悲観的なタイプの人はテロメアが短く、染色体が不安定になってガンになりやすいということです。
また、認知症との関係についても、テロメアが減って短くなった人ほど記憶をつかさどる海馬の萎縮が顕著で、認知症のリスクが高くなることが確認されています。
そんな中、ノーベル賞学者のカリフォルニア大学サンフランシスコ校のE・ブラックバーン博士は、「テロメラーゼ」という酵素がテロメアが短くなるのを遅らせ、細胞を若返らせることを発見、現在テロメラーゼを増やす研究を続けていますが、ここでも次世代スパコンなどが大いに貢献しています。
ただ、自宅でもできる簡単な方法としては「めい想」もあります。例えば4秒間かけて息を吸い、4秒間かけてはき出しながら花、ろうそく、夕日などを見つることを1日10分から始めて5年間継続したところ、参加者のテロメアは平均で10%伸び、ガンの進行も遅らせることができたそうです。
(10)拡張する肉体と現実(3Dバイオプリンター)
量子理論の応用編ともいえる「ホログラフィー理論」を生かしたのが、物体の複製をいとも簡単に作ってしまう「3Dプリンター」で、その対象範囲は広く、中でも注目されているのが再生医療分野で応用された「3Dバイオプリンター」です。
3Dプリンターの仕組みは、まずレーザー光を分け、一方の光は鏡に反射して直接スクリーンに、他方の光は鏡に反射して対象物に当たりつつスクリーンに届くようにします。
さらにもう一つ光を発して、これらを正面に置かれたスクリーンに集め合成すると、なんと対象物と同じ3Ⅾの立体画像が浮かび上がり、そこに物体の原料を吹き付けてコピーを作ります。
3Dバイオプリンターの場合はさらに高度な複雑性が増し、材料のほか細胞のタイプ、成長や差異化要因、生体細胞や組織の反応性、血管構築における技術が求められるほか、超次世代スパコンを使うことでバイオマテリアル科学や細胞生物学、医学のテクノロジーを統合し解決します。
置換される部位は外骨格のほか甲状腺、気管支、臓器では腎臓、肝臓、膀胱など多岐にわたります。2006年には米国ウェイクフォレスト大学のA・アタラ教授が、ヒトの皮膚細胞を再プログラムして心臓細胞に転換し、細胞培養液の中に集めることで〇・二五ミリメートルの心臓を作り、これに3Dバイオプリンターを使って必要な形状とサイズを与え、心臓を作り出すことに成功しています。
さらに、米国3Dシステムズ社とエクソ・バイオニクス社は共同で、3Dプリントの“ロボットスーツ(生体工学外骨格)”を作り、世界中のリハビリセンターにいる脳卒中、脳性麻痺などが原因の歩行困難者、回復不可能な外傷を負った帰還兵を支援しています。
(11)仮想する心と現実(ブレイン・マシン・インターフェース)
人間の意識(心)の変化を感知して機器の制御を可能にするテクノロジーに「BMI(ブレイン・マシン・インターフェイス」があります。
意識の変化を感知するメカニズムには現在、脳波を記録する「脳派記録法」、筋肉の動きから意識の集中に関する信号を検知する「筋電図描画法」、網膜の変化を測定する「眼電図記録法」などがあり、自閉症、脳障害、身体障害、神経障害などの治療や患者の支援に使われることが期待されています。
また、人工知能研究の世界的権威で、「シンギュラリティ」の著者であるレイモンド・カーツワイル氏によると、ナノテクノロジーが進むと、血液細胞レベルのサイズのデバイス(ナノボット)が人体の中で機能するようになり、これをクラウド(インターネット)上のAIとつなげると、人間の大脳新皮質を拡張できるといいます。
ただ、逆に言えば、このような人間の脳や筋肉や心臓などの臓器が発する弱電磁波は、WiFiなどの無線通信で使われる電波と共に容易にハッキングされやすく、指向性の高いビームやレーザーなどの電磁波を使った「思考盗聴」や「思考制御(マインドコントロール)」などにも利用されやすいと言われており、実際「MTウルトラ」といわれる電磁波を使った装置も存在するといわれています。
そこで、普段から以下の心掛けが肝要と言われています。
❶頭の中でひとりごとをブツブツ言わない
❷アクションゲームやSNSで興奮しない
❸大声を出したり感情を高ぶらせない
❹何事も七割程度の速度でこなしMAXに能力を出さない( 携帯電話やパソコンでの文章の早打ちなど )
❺チョコレート、ピ-ナッツなど興奮する食べ物をひんぱんに食べない
❻“貧乏ゆすり”など自立神経を継続的に高ぶらせる行為をしない
このように、現段階の「BMI」は、脳波などを検知して機器を制御するメカニズムに過ぎませんが、将来的には「マシン(コンピュータ)」がハブ(中継基地)となって人と人が直接繋がる「BBI(ブレイン・ブレイン・インターフェース)」へと発展することが期待されています。
そもそも人間の脳のメカニズムも、1000億個の神経細胞のそれぞれが互いに1000から1万の規模で密に繋がるシナプス結合というものを持っていて、この合計で100兆個ものシナプス結合からなる神経回路の全体を「コネクト―ム」と呼んでいます。
この中の一つひとつの神経細胞は個性豊かで、どれ一つとして全く同じ振る舞いをする神経細胞はなく、1000億個の神経細胞は多数決を行って意識や感覚を決め、言葉として発しています。
この脳のメカニズムと同じで、私たち一人ひとりの脳を一つの神経細胞と見なすと、BBIによって73億人の脳で構成された地球規模での「アーススケール・コネクト―ム(巨大集合意識)」が形成され、言語の違いを越えた言語が持つ「意味そのもの(シニフィエ)」のやり取りができ、あるいは、人々の感性、感覚、意志が直接つながり、個々人が個性を維持しながら、その有する個性や才能を誰もが共有できる“知性の拡張”が実現します。
実際、AIでデイープ・ラーニングを行うときも、人間の脳内の神経回路と同じものを「ニューラル・ネットワーク」としてコンピュータ内にシュミレートしたとき、全体が残るために局所のネットワークが自己を犠牲にする“利他的”な動きが確認されています。
このような地球規模での巨大な意思決定機構である「アーススケール・コネクト―ム」は、世界規模の災害や人類が破局的事態に直面した時、国家の枠を超えた対応を可能にします。
以上みてきたように、「3Dバイオプリンター」で肉体を創り、そこに「BBI」を使って潜在意識の中に記憶されたデータを取りしてインストールすれば(心を創れば)、生命科学の四つの大きな神秘といわれる生殖・成長・老化・進化が科学的にコントロールできるようになり、人類は子供を作ることなく、また自分のクローンを作るまでもなく、自らのアイデンティティを維持しつつ不老、不死をも選べる世界が実現するのです。






