カール・マルクス『共産党宣言』には「家族制度廃止」が高らかに宣言されている。

「完全に発達した家族は、ブルジョア階級にしか存在しない。」 「ブルジョアと家族は資本主義の消滅と共に消滅する」


家族は「財産の貧富・生活の差別・子供の生育、教育環境の不平等」を拡大生産する階級差別の温床となる。その血縁からの連綿とした時間性が門地・門閥と貧民といった差別を拡散する。それらの社会性が排他性を生み、本来生物として平等であるはずの人間的差別を助長する。それらが民族差別、国家間の対立と戦争を生む。

そうならないための最終的な結論が社会主義であり、財産の均等配分の結果、共産主義政府が世界を統一すると戦争や差別が無くなるのだと熱弁するわけだ。

しかし、マルクスの人生は、その正反対の道を歩んだことを語りかける。

マルクスは貧困貧乏からの脱出のためにブルジョアに依存していた。マルクスの姉ゾフィーの親友イエニー・フォン・ヴェストファーレン(父が枢密顧問官という上流階級の令嬢)にプロポーズして結婚した。

しかし浪費癖のあるマルクスは何も労働せず、彼女名義の財産を全て使い果たし、彼女は後に自分の服までも質に入れて生活を支えた…。

しかもマルクスは愛人ヘレーネ・デムートと好き勝手飲食してブクブクと太りつつも、子供には十分な食事を与えなかったため、長男エドガーは栄養失調で8歳で死亡、次男ヘンリー、2年後には三女のフランチスカも死去した。また愛人との間に産まれた息子フレデリック・デムートは、マルクスが認知せず、工場労働者となっていった。


マルクス理論の根幹は、労働者と資本家を明確に区別し、経済は資本主義から共産主義に移行すると結論付けした部分であるが、労働者と資本家は対立すると考えていることが「労働者でも稼いだ賃金で資本家となるべき一面を保持」している資本主義段階に於いてのみの対立であり、それが壊れ対立が解消されてしまうため、それらの革命による「崩壊」を主張するわけである。革命は軍事蜂起も手段の一つであり,武力革命は戦争放棄と程遠いのである。

「共産党宣言」で家族廃止を訴えたマルクスの家庭…知らぬが仏…思想と人生は切り離してはならぬといっている哲学者が「家族を養う義務から逃走したダメ親父」だった訳である。

労働者の味方として「共産主義」を提唱、餓死する我が子を見ても、自分は生涯、額に汗して肉体労働すらせずに…、それがカールマルクスという男であった。

たしかに彼が只のおっさんだったら高尚な思想は説かなかったであろうし、「家族制度」について根拠無き批判はしなかったであろう。

家族愛、連綿と続く血脈への不信と迷いと理想への憧憬が生み出した混乱した感情が、私生活の不和と矛盾を彼の思想中においてのみ解消を図ったものなのである。


既に崩壊した理論と家族に対する「彼の中でのみ合理的」な彼の人生肯定の願望と投影が「家族制度廃止」理論であった。

それらが思想として分離され現実に何を生み出したのか。如何に多くの犠牲を再生産したかは想像を絶する。マルクス主義の体現を目標としたレーニンは「家族解体法」を制定した。しかし数百万人の孤児が発生、国家体制自体が動揺した為、スターリンが1936年に廃止するに至った経緯があった。

理想と現実の乖離は、逃避としての虚構を現実に引き出す。その思想と真実は現実と歴史に判断を下す。史料の中から思想のみ、人間の行動のみ…抽出することは既に現代の状況判断がそれを利用としているに過ぎない人間のエゴである。

歴史の連綿にその時代の現実を史料から引き出す作業にはこうした危惧が胚胎されていると今更ながらに理解するものである。


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