「円安」による物価高と日中関係をめぐる「安全保障」。穏やかな年の瀬を迎えられない2025年日本を象徴する2大テーマだ。

 

まずは「円安」。

 

今年のドル円相場を見ても、年初来安値をつけた4月22日139円88銭から昨日の終値157円47銭まで、円の価値は18円近く下がっている。

 

しかし円安は今に始まったことではない。

 

ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月から世界的インフレが本格的に始まり、それ以降、円は他の主要通貨に対して独歩安が続いてきた。

 

ちなみに22年1月には1ドル=115円ほどだったので、円の価値は対ドルで30%近く下がってしまったことになる。

 

円は他の主要通貨に対しても軒並み低下していて、スイスフランに37%、欧州ユーロに29%、英国ポンドに26%、豪州ドルに21%、中国人民元に18%といずれも下落している。

 

そうした中、今年9月に「今、金利を上げるなんてアホや」と発言した高市早苗氏が自民党総裁となり、植田日銀総裁は政権や与党からの批判を警戒し10月の政策決定会合では利上げを見送った。

 

しかしさらに円安が進行して物価高が進み、長期金利も上昇するという市場からのアラートを遂に高市総理も無視できず、日銀の利上げ容認へと転換。今月19日、政策金利は0.75%に引き上げられ30年ぶりの高水準となった

 

ところが利上げ発表直後から、セオリーに逆行してさらに円安ドル高が進み、植田総裁の記者会見中に、あらゆる通貨に対して円がみるみる売られるという異様な展開となってしまった。

 

利上げ幅の小ささに加え、異次元の金融緩和を続けたアベノミスクを継承する高市総理やそのブレーンの顔色をうかがう植田総裁の今後の利上げペースはこれまで通り遅いと、金融市場から見透かされた結果の円売りだった。

 

 

なぜここ数年、日本円だけが他の通貨に対して値を下げ続けているのか。

 

世界的なインフレが激しくなった22年以降、他の先進国の中央銀行はいずれも急ピッチで利上げを進め、ピーク時には5%程度もの利上げを断行した。

 

各国の直近の「実質政策金利」(政策金利から消費者物価上昇率を差し引いた値)を見ると、彼我の差は明らかだ。

 

米国は1.15%。英国は0.55%とやや引き締め気味で、韓国は0.1%、カナダは0.05%、ユーロ圏はマイナス0.2%と、ほぼ中立金利に達している。

 

これに対して日銀は政策金利を0.75%に上げた今でも、実質政策金利はマイナス2.15%と、いまだ突出した大緩和状態であることは一目瞭然だ。

 

依然とした金融緩和状態の中で、政府は補正予算で8.9兆円と破格の大型物価高対策を決定し、さらに総額2.7兆円のガソリン減税や所得減税も決めた

 

だが、こうした巨額の歳出と減税によるバラマキをすればむしろ景気を刺激して物価は下がるどころかを上がってしまい、結果的に残るのは赤字国債のツケだけという危険を孕む。

 

本来、物価高対策として最も有効なのは、中央銀行の利上げだというのに、実に残念な限りだ。

 

 

さて、2025年を象徴するもう一つのテーマ「安全保障」に話を移そう。

 

専門家によれば、安全保障を考える目的には二つあるそうだ。

 

一つは「脅威を特定し対処法を考えること」。

 

つまり、どの国が自分の国と国際社会にとって脅威となるのかを特定し、その脅威を現実のものにしないためには、どのような方法を用いれば良いのか答えを出すこと。

 

一般的に「安全保障」と言えば、こうしたことのみを考えがちだ。

 

では、もう一つの「安全保障」とは何か。

 

それは「自国が脅威とならないようにチェックすること」。

 

高市総理の台湾有事をめぐる存立危機事態発言で、私たちはこの二つめの安全保障の重要性を身をもって学ぶこととなった。

 

前者の安全保障を追求するあまり、その結果がもたらす反作用が見えなくなることがある。安全保障とは、突き詰めるところ各国の「バランス」であるにもかかわらずだ。

 

前者の安全保障を推進するといかにも勇ましく、あたかも自分の国が他国より強くなり安全になったような幻想を抱きがちだが、実際には他国を刺激しより敵視されることによって安全面でのリスクが高まる可能性もある。

 

安全保障の作用と反作用を常に客観的に注視した上で政策は実行して行くべきと思うが、総理官邸から核保有発言まで飛び出す現政権のバランス感覚の危うさを深く憂慮する。

 

 

「円安」と「安全保障」、いずれも大切なことは世界から見て今の日本の立ち位置はどうなのか、本当に豊かで平和な国へと向かっているのかを、周囲の人たちの顔色やネットから流れてくる情報に惑わされることなく、国民一人ひとりが主体的に考察し客観的に判断することだ。

 

それさえできていれば、こんな高い政権支持率のわけはないだろうに・・・と、ただ嘆息するばかりの年の瀬である。

 

 

〈参考文献〉

 

朝日新聞 2025/12/20

「日本人を相対的に貧しくした円安 日銀のわずかな利上げでは効果なし」

 

『平和のための戦争論』植木千可子著 ちくま新書