江戸の寛政年間から200年以上続く鰻の老舗「野田岩」。
その五代目主人である金本兼次郎氏は御年96歳の今も現役で厨房に立つ。
この日も開店少し前に到着した私を、鯔背な後ろ姿でさり気なく迎えて下さった。
飛騨の古民家を移築した店内は品格と温もりのバランスが絶妙で、しっとりと居心地が良い。
池波正太郎にも愛された鰻は、脂の乗った芳ばしいそれとは一線を画し、ふわっと身が解けるほど蒸しの入ったきわめて繊細な仕上がり。
川魚ならではの野趣が仄かに郁る上品な志ら焼と、キリッと生醤油が効いたタレが江戸の粋を感じさせる蒲焼が、湯煎で暖め冷めないよう工夫した雅な朱塗りのうつわで供される。
五代目がこだわり抜く軽やかな黄金の焼き色の如く、江戸・山の手を象徴するまさしく金字塔の名店である。