令和3年3月3日と、トリプルスリーになった今年の雛祭り🎎

感染対策もあって、今回は家族水入らず、おうちで祝われた方も多かったのではないでしょうか。

雛祭りと言えば「桃の節句」ですが、実は桃花の開花時期は3月下旬から4月上旬。  



 

というのも、雛祭りのルーツである「上巳(じょうし)の節句」とは3月最初の巳の日(上巳)に行う行事で、本来は旧暦で祝うもの。

 

今年の旧暦3月3日はまだだいぶ先で、4月14日です。

上巳の節句は室町時代に中国から伝わり、江戸時代には徳川幕府が元旦と並ぶ大切な祝日である五節句の一つとして定めました。

実は、我が家では雛人形を新暦の3月3日に飾ってお祝いし、旧暦の3月3日に満開となった桃花とともにもう一度お祝いして仕舞うことに、数年前からしています。

なにしろ2月後半は短くて、バレンタインや自分の誕生日にいただいたお菓子やお花などお祝いの余韻に浸っていると、あっという間に過ぎてしまい、気づくともう3月💦

 

今からお雛様を飾ったところで、すぐしまわなきゃならないし、でも飾らない訳にもいかないし・・・という事態にいつも陥り、雛人形を出すか出さないか悩むくらいなら、そうだいっそのこと二度祝っちゃえばいいんだ💡と思いあたり、新暦&旧暦ダブル雛祭り方式が始まりました。

これですとお菓子もお酒も二度楽しめますしね😋

加えて近頃は、娘も孫もいないのにこの歳で昔ながらの雛人形を出し入れするのはさすがにしんどく、昨年、愛らしい一刀彫の雛飾りと出会ったのを機に、今年からはその雛壇を飾ることとしました。

奈良一刀彫の伝統を受け継ぐ二代目「鐡山」作の雛飾りは、実に扱い易くコンパクトで、なかなか雅ながら素朴で親しみやすく、とても気に入っています。 



 

 

添える雛菓子も、今年は一刀彫の雛たちに合わせてちょっとプリミティブな感じを加味したいと思い、恒例の虎屋製「雛井籠(ひなせいろう)」と「雛折(ひなおり)」に加え、京都・末富製の「ひちぎり」を用意しました。

 


 

「ひちぎり(引千切)」は、その名の通り、お餅をひきちぎったような形をしていて、おたまだったら柄にあたる部分に、ちょんと角が生えています。

元々「ひちぎり」の生地は草餅だったそうですが、型の美しさと食感にこだわってか、末富さんの「ひちぎり」は、生地が(よもぎ)の“こなし”でできています。

“こなし”とは、餡子に小麦粉を混ぜて蒸した和菓子の生地で、京都ではよく使われるそうです。

関東では上生菓子の生地と言えば、餡子と求肥を混ぜた“練り切り”が主ですが、“こなし”は練り切りほどねっとりせず甘みも控えめで、噛んだ瞬間のちょっとパサっとした感触が、どこかかんさびた感じがして、私は好きです。

ちなみに、東京でも虎屋さんは京の伝統を受け継ぎ“こなし”の土台を作り続けていますが、こなしではなく“羊羹”製と表示されています。(味も食感もいわゆる普通の羊羹とは全然別物です)。

ピンクの「ひちぎり」は、白小豆と手亡(てぼう)の合わせ餡をピンクに染めたきんとんの中に、小豆のつぶ餡がくるまれています。

手亡は白いんげん豆ですね。

また白い方は、白小豆のつぶ餡の上に山芋で作ったきんとんが載っていて、この山芋のきんとんがなんとも滑らかで上品なコクがあって絶品です!

この「ひちぎり」、宮中への出入りが許されていた老舗菓子匠 川端道喜が著した『和菓子の京都』によると、江戸時代、徳川家から後水尾(ごみずのお)(ごみずのお)天皇の中宮となった東福門院の頃に、女院御所に来客が多いので、お餅を丸めるひまが無くて引きちぎったことが由来とのこと。

見た目には素朴ながら、その製法も味わいも実に手がこんでいて滋味深い「ひちぎり」に、一刀彫の雛人形が重なりました。
 


 

それにつけても雛祭りの世界は、『枕草子』の一節、「何も何も、小さきものは、みなうつくし」そのもの。

人形もお道具もお菓子も、いくつになっても一目見た瞬間、胸がキュン💓とします。


「うつくし」は現代語訳ですと、「可愛い」とか「愛らしい」という言葉に置き換えられますが、ちょっと平板な感じがしますから、文脈から推測して清少納言の想いを今様に表現したら、「きゅんです」や「萌え」の方がハマるのかしらと思ったりします。

中でも虎屋製の「雛井籠」ほど、「小さきものは、みなうつくし」を体現した菓子は他にないのではと思います。
 


 

10センチ角の箱は、虎屋に現存する安永5年(1776)の雛井籠を模しているそうです。
  

 

5段まで重ねられますが、詰められている菓子はどれも直径3センチにも満たない愛らしさ。
 


一段ずつ違っていて、次のような3種類が詰められています。

最上段は、桃にまつわる三種生菓子。

中国では昔から、桃は食すと百歳(ももとせ)まで生きられる不老長寿の仙果であると同時に、陽の花で陰を祓うため邪気や悪鬼から身を守るということで、節句花として飾られています。

ということで、まずは鮮やかな桃花をイメージした求肥で白餡をくるんだ『桃の里』。

仙果である桃実を象った煉切の『仙寿』。

そして氷餅をまぶした黄色の道明寺饅に、桃の花の焼印をした『雛てまり』の3種が一段に詰められています。

2段目は、薯蕷製で御膳餡入りの『笑顔饅』。

薯蕷生地のもちもち感と、上品の極みと言える御膳餡のバランスが秀逸で、私は虎屋のお菓子の中で最も美味しいと思っています。

普通の大きさの薯蕷饅頭では絶対に味わえない、直径3センチという“小さきもの”ならではの贅沢な逸品です。
      
3段目は、「椿」「桃」「八重桜」の3種を象った和三盆糖製『花干菓子詰合せ』。

選び抜かれた和三盆ならではの、実に雑味のない甘さで、舌に乗せた瞬間スッと消えて行きます。

 


 


平安時代の貴族は、幼児用の「形代(かたしろ)」として「天児(あまがつ)」という人形を用意し、幼児にふりかかる凶事を代わりに負うように身近に置き、それがお雛様のルーツと言われているそうなので、私は親しい方にお子さんが生まれると、性別を問わず雛祭りにこの「雛井籠」を贈っています。

ただ、3歳になる娘さんを持つ知人に贈ったところ、最初のうちはキレイ!カワイイ💞と目を輝かせていたお嬢さんが、「これって食べていいの?」と聞くので、「もちろんよ、どうぞ」と答えた瞬間、次から次に頬張って、あわやそのまま一箱食べてしまいそうになったとのこと。


お子さんや若い方には、もう少し腹持ちの良いお菓子も一緒に贈るべきだったと反省しています😅。
 


ちなみに、こちらも雛祭りの時期限定の「雛折」。

桜と橘をあしらった道明寺羹を、煉製の羊羹に重ね、華やかな折箱におさめました。

こちらの羊羹は、“こなし”ではなく(あん)に砂糖・寒天を加えた、いわゆる羊羹です。 

 

 
 

 

という訳で雛祭りのルーツを辿ると、「上巳の節句」にしろ「流し雛」にしろ、不老長寿の桃の霊力や形代に厄疫を移し流すことによって“悪疫を祓う”のが、祭りの主旨ということが分かってきます。

コロナ禍の今春は、東日本大地震から10年の節目でもあります。

3月11日には、漢方薬でもある桃の花をお酒に浮かべ「桃花酒」として、犠牲になられた方々の御霊に献じるつもりです。

あらゆる人々の厄疫退散を祈り、全てのことに感謝しながら、新暦から旧暦3月3日までの間を、雛人形たちとともに心穏やかに過ごしたいと思います。