随分と冷え込んだ大晦日ですが、いかがお過ごしでしょうか。

世界中がコロナに翻弄された2020年でしたが個人的には、できないことを数えたり嘆く時間があったら、一つでも多くできることを探そう、工夫をしようと、頭も心もフル回転させたため、失ったことよりもむしろ学ぶことの多い一年でした。

同時に、どうせいつも通りできないなら、普段ならできないこと、今だからこそできることは何でもやってみようと、新たなことにチャレンジした年でもありました。

立ち塞がるものが大きければ大きいほど、それを乗り越えようとして人は工夫を凝らし、勇気を奮い、挑戦を続けて進化するものだということを身をもって実感できた年、それが2020年でした。


そんな一年の中でも、最大の試練が2月27日に政府から要請された「一斉休校」。

作新学院は「何があっても学びは止めない!」という思い一つで、小・中・高・大すべての設置校で、「オンライン授業」の実施に全力で取り組みました。

とは言え、ネット環境に親和性の高い教員数は限られており、多くの教諭、特に年齢層の高い幹部教諭ほど、突然にオンライン授業やらネット配信などと言われても「???」という状態。

もちろん各教室にオンライン授業用の機材があったわけでもなく、そもそもどんな機材が必要なのかすらよくわからない状況の下、オンライン授業という海に漕ぎ出した作新の行く手はまさに五里霧中でした。

実は作新学院ではこれまでも、ICT(information and communications technology)の教育への活用を促進すべく、「アカデミア・ラボ」の創設など新たな試みを重ねてきましたが、保守的で前例主義的な学校教育の現場を一変させるまでには至らぬ中、一斉休校という緊急事態が学院のICT化を大きく後押ししてくれる結果となりました。

作新の教職員は、土地柄を反映してかあまり革新的とは言えない反面、やると決めたらどんな努力も惜しまず、着実に根気強くやり遂げるのが常。

家庭での通信環境に配慮して、働く保護者が在宅している早朝や夜あるいは土日祝日にもオンライン授業を行い、お陰様で3ヶ月近くの休校による授業の遅れは、本学では二学期を迎える前にほとんど解消することができました。


このように学業はオンラインでなんとか補うことができましたが、部活動では甲子園をはじめほぼ全ての大会が軒並み中止となり、卒・入学式などの式典や修学旅行といった行事も規模の縮小や中止を余儀なくされました。

講堂や体育館で顔を合わせることができず、全てが校内放送となってしまった式典では、教室にいる子どもたちの心に少しでもストレートにメッセージが届くようにと、式辞で話した内容とシンクロするようなミュージック・ビデオの活用を始めました。

作新の卒業式ならではの、スケール感に富んだ在校生による盛大な「送り出し」も、取りやめとなってしまった3月1日の卒業式では、式典の幕が降りた瞬間、卒業ソングとして名高いONE OK ROCK『C.h.a.o.s.m.y.t.h.』を全教室に流しました。

曲終わりの、

 

Dream as if you will live forever
And live as if you'll die today

 
という歌詞の意味を生徒たちに是非理解して欲しかったのですが、放送での卒業式となったお陰で、日本語訳の歌詞を画面に表示して伝えることができました。

続く4月4日の入学式では、例年であれば校門近くで新入生歓迎の賑やかなパフォーマンスを繰り広げる各部活動の様子をあらかじめビデオに収め、式典が始まる直前、前年の甲子園大会主題歌でもあったOfficial髭男dismの『宿命』にのせて各教室に放映しました。

甲子園大会中に聴いてももちろん感動的な曲でしたが、コロナ禍で聴く『宿命』の歌詞は本当に胸に迫り、あらゆる試練に立ち向かう勇気を奮い起こさせてくれました。


9月初めに予定されていた学院祭は、毎年数千人規模の人たちが校内に集まるため、今年は学院史上初となる「オンライン作新祭」に切り替えることとしました。

オンラインという未知でまっさらなキャンパスに、子どもたちの自由な発想と柔軟な頭脳によって、今だからできる、今しかできない世界を描き出すことができました。


9月28日、135周年を迎えた創立記念日では、コロナ禍で発生した偏見や差別をなくそうと愛媛で始まった「シトラスリボン プロジェクト」を受け継ぎ、児童・生徒そして教職員全員で手作りしたリボンを胸につけて、「人を傷つけない」ことを誓い合いました。
 

そして、このプロジェクトのスローガンには、大ブームとなった『鬼滅の刃』から我妻善逸(あがつまぜんいつ)の次の言葉を使わせてもらいました。

 

「自分がされて嫌だったことは、人にしちゃいけない」


『鬼滅の刃』は、単に人気漫画という次元を遥かに超えた名著中の名著で、子どもたちに学んでもらいたいストーリーやエピソードが満載で、名言・名ゼリフの宝庫でもあります。

12月22日の終業式では、「『鬼滅の刃』に学ぶ人間力」というタイトルでパワーポイントを作成し、児童・生徒たちに講話もさせてもらいました。

しかし、こんなことをやってみようと思えたのも、毎日毎日コミュニケーションが極端に制限された生活が続く中、放送で一方的にモニターから流れてくる話に、少しでも子どもたちの心を惹きつけ、共感し理解してもらうにはどうしたら良いかと考えたからで、コロナなど起きなければあり得なかったことだと思います。


コロナ禍に見舞われ、いやが上にも一人ひとりの「人間力」が試され、鍛えられることとなった2020年。

おしまいは、『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎が所属する鬼殺隊の統率者である、産屋敷耀哉(うぶやしきかがやの次の名言で締めくくりたいと思います。

 

「永遠というのは人の想いだ。
人の想いこそが永遠であり、不滅なんだよ。」

 

コロナという鬼は、儚く脆い存在である人間の心身を蝕み、社会に分断を招きますが、誰かを守りたい、誰かを幸せにしたいという「人の想い」がつながって行く限り、人が滅びることは決してないと信じています。

どうか良い新年をお迎えください。