作新学院の各設置校も夏休みを迎え、今春から始動した「アカデミア・ラボ」も怒涛の一学期を終えました。
アカデミア・ラボは、近未来対応型の人材を育成するため今年度から新設された教育機関。この一学期は試用期間ということでトライ&エラーをひたすら積み重ねてきました。
アカデミア・ラボは、主に次のような3つのタイプのラボから成っています。
1.「クエスト・ラボ」
“真理の探究(クエスト)”を目的とし、作新学院の教育方針である「自学自習」を体現するラボ。
多様な「アクティブ・ラーニング」や、世界市民となるための「シチズンシップ教育」などにより、論理的思考力、発想力、構想力、プレゼンテーション力など、未来を創造するための基礎となる力を養います。
2.「ランゲージ・ラボ」
世界とリアルタイムでつながる通信回線やAV機器をフルに活用して、英語をはじめとした生きたコミュニケーション能力と世界的視野を学ぶラボ。
文字通り英語に浸された(イマージョンされた)環境、英語漬けの状態でグローバルな課題について学ぶ「イマージョン教育」など、ネイティブの外国人教師による双方向型の授業を展開し、高い語学力とともに世界の出来事を我が事として感じ考えられる国際感覚を養います。
3.「ダイニング・ラボ」
食育ランチや食育菜園など“食”の営みを通して、心身ともに健康であることや地球環境を守ることの大切さを学ぶラボ。
「生命」としてのライフと、「暮らし」としてのライフを共に豊かにで
きる未来を、自らデザインしてゆく力を養います。
かなり多岐にわたるこうした授業やプログラムを、「チーム・ラボ」に指名された限られた教職員たちとともに、ほぼ前例もないままゼロから手探りで始めているわけですから、現場は日夜、苦闘と苦悩の連続。
アカデミア・ラボの建物が竣工し、ヘルメットにスニーカーという工事現場での日々は終わったものの、教育ソフトの開発や人材の確保、ダイニングでのメニュー開発や業者との交渉、各ラボでの家具や機器、食器の選定、企業とのコラボ商品開発などなど、一気にまったく違うタイプの仕事が津波のごとく押し寄せ、もう正直あっぷあっぷの日々。
次から次へと予想もしていなかった問題が続出する一方で、予定していたスケジュールが一向に進まないのは日常茶飯。
一時期はもう頭が破裂しそうで、すべて放り出して逃げ出してしまいたい衝動に駆られたり、もうこれ以上一歩も前へ進めないのではないか、そもそもこんな大層な構想をこんなちっぽけな学院で始めたこと自体が間違っていたのではないかと自信喪失に陥ったり、更年期も重なってか重度のアレルギーと眩暈、鬱(うつ)に断続的に見舞われ、学期終盤にはギックリ腰にまで襲われる始末。
それでもなんとか夏休みを前に、それぞれのラボが当初設定した目的や志を違えることなく、それぞれのカタチやペースを作り上げることができたのも、すべてはチームリーダーをはじめとする担当教職員の“不撓不屈”の働きがあったればこそ。
とにかく地元・栃木の人というのは、めっぽう真面目で信じられないほど粘り強い。自分から先頭を切ってバリバリという人や、要領よくサクサクという人は少ない代わりに、与えられた使命はひそやかに、そしてじっくりと時間をかけ徹底して完遂してくれます。
はじめは強気で大風呂敷を広げておきながら、実は“へたれ”という私とはまったく逆の、実に手堅い人々に支えられ、アカデミア・ラボの本格始動への道筋も付いてきた6月終わり。私自身も、ラボで生徒たちに講義を始めました。
講座名は「未来デザイン講座」。
1講座60分程度で、おおよそ次のようなテーマで行います、
0. Introduction
〜流動化する世界の中で
1.まずは自身の「座標軸」を決めよう
〜君にとっての“幸せ”とは?
その幸せを実現する社会とは?
2.民主主義は最良のシステムか
〜ポピュリズムの嵐、吹き荒れる中で
3.科学技術は幸せをもたらすか
〜AI(人工知能)&遺伝子操作の時代を生きる
4.グローバル化の暴走は止められるか
〜格差を是正し、多様性を守るために
5.少子高齢化で君の未来はどうなる
〜「社会保障」についてホンキで考えよう
6.地球環境は君の暮らしをどう変える
〜地球船未来号の一員として
ラボの特徴を活かし、視聴覚を刺激する教材を活用しながら、できるだけ生徒とインタラクティブに進めていきます。テーマによっては専門の外部講師を招き、一緒に講義を展開することも企画しています。
ただ問題は講義時間の確保。通常の授業時間は、教科書に沿った内容を履修することでいっぱいですし、授業が終わるとほとんどの生徒が部活や塾に行ってしまい、講義が成り立ちません。
授業が終わった土曜の午後や、式典の後など間隙を縫うようにして、これまで何回か講義を行ってきましたが、今後、ラボで外部講師を招いて授業を行う際は、どのように子どもたちとの時間を確保するかが最大の課題となりそうです。
生徒全員を対象としての講義時間の確保が難しい中、未来デザイン講座では実験的な試みとして、選抜された10数名の高校生(全員1年生)とともに「ラボ・ゼミ」というゼミ形式の講義も行っています。
今期のテーマは、「民主主義を(正常に)機能させるには」。
ポピュリズムや“多数の専制”など、民主主義が陥りがちな影の部分について、トランプ大統領を生んだ米国の大統領選をはじめとする世界状況や、フランスの政治思想家・アレクシ・ド・トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』に関する論考などを題材にしながら、私から全体的なレクチャーを行った上で、その解決策を生徒自身が各々考え、先日、初めてのプレゼンテーションを行いました。
このプレゼンが、高校1年生ならではの常識の枠にとらわれない自由な発想力と、物事の本質を鋭く見抜く洞察力に富んでいて、実に秀逸でしたので、次回のブログで詳細をご紹介させていただきます。