~「人間力」が紡ぐ文武両道の絆 

 

 昨年に引き続き今夏も、作新には“文武両道”で数多くの栄光がもたらされた。

 

 幕開けは、7月。中等部・英進部を卒業し、現在、東京大学大学院に学ぶ新藤弘章君から一通のメールが届いた。

「ただいま経産省より内々定をいただきました!」

 新藤君には、二年連続して高校の「学校案内」に登場してもらったこともあり、将来の進路について以前より色々と話は聞いていた。

 学生時代から社会貢献に強い志をもち、ボランティア活動などを続けてきた彼が、「日本の経済を強くすることで、途上国の人々を豊かにしたい」という夢を実現するため、経済産業省の官僚という道を選ぶに至ったことは、ある意味とても自然なことだった。帰国子女として育ち、TOEIC 925点という高度な英語コミュニケーション力を活かすためにも、ベストの選択に思えた。

 ただ彼は、昨年までは米国への留学を希望していた。官僚を目指すにはいささか急な感もある進路変更が果たして功を奏するのか。

 新藤君の思いが天に通じるのを、ただ祈るのみだった。

 内々定が決まり、彼を高校時代から見守り続けてきた英進部の水沼良浩教諭が、こんな話をしてくれた。

 「(大学)センター試験の科目選択でも大学選択でも、新藤はいつも

 強気なんですよ。僕が『新藤、君の気持はわかる。だが、こっちにし

 といた方がいい。必ず受かるから』って言っても、彼は『先生、すみ

 ませんが、やはり僕はこれでやらせてもらいます!』っていって、な

 かなか思うような結果が出なかったんです。でも、遂に…本当に良か

 った。」

まぶしそうに遠くを見つめる水沼教諭の眼に、光るものがあった。

 

 続いての栄光は、今春、英進部を卒業したロンドン五輪メダリスト 萩野公介選手のバルセロナでの世界水泳。アジア人では前例のない6種目17レースを泳ぎ切り、400m自由形と200個人メドレーで、見事銀メダル2個を獲得した。レースからレースへ、しかも異なる種目を、短い時には30分強というインターバルで坦々と泳ぎ抜く萩野選手の姿は、修行僧の如きストイックさと神々しいオーラに満ちていた。
 期待されていた400m個人メドレーで金メダルを逃したことすら、3年後のリオ五輪に向け最高のモティベーションを天が彼に与えて下さった“恩寵”としか、私には思えなかった。それほど今大会は、KOUSUKE HAGINOの限りない可能性を世界に印象付けた、実に輝かしい闘いだった。


 そして、728日。全国高校野球 県大会決勝戦、9回2死からの“奇跡の大逆転”で勝ち獲った三夏連続の甲子園出場。
 最後の最後まで決して諦めることなく、重盗を畳みかけて進塁する選手たちのガッツ、勇気、そして何より絆の強さ。そこに、作新が培う“人間力”の極みを見た気がした。
 実は昨年、ロンドン五輪でのメダル獲得と甲子園決定は、偶然にも同日だった。そして今夏も、同じ28日の深夜、萩野選手は一つ目の銀メダルを手にした。  
 海を越えて「作新」が吹き起こす勝利の風を、確かに心で感じた瞬間だった。

 

 818日。甲子園での試合が終わり、選手たちの宿舎へねぎらいの言葉をかけに出向いている時だった。

 車が宿舎の前に到着する寸前、携帯が鳴った。世界水泳から凱旋した萩野選手からの電話だった。開口一番、彼は

「甲子園、惜しかったですよねー。」と、本当に悔しそうな声を上げた。

「私、実は今、選手たちの宿舎の前にいるんだけど…見えてるみたいだね。」

 

 

 -作新は特別な絆でつながっている-

そのことを確信させてくれた、ふたたびの“栄光の夏”だった。