Field of Dreams
フィールド・オブ・ドリームス
1989年公開
フィル・アルデン・ロビンソン(Phil Alden Robinson)監督
 
01
ユニバーサル映画配給「フィールド・オブ・ドリームス」より
 
原作はウイリアム・パトリック・キンセラ(William Patrick Kinsella)の小説「シューレス・ジョー」(Shoeless Joe)だ。
 
小説は、大正8年(1919年)米メジャーリーグの黒い霧「ブラックソックス事件」で、大リーグを永久追放になったジョー・ジャクソンがテーマになっている。
 
1960~1970年代に大学を中心に吹き荒れた反戦運動、マリファナを経験した世代は、マスコミ、教育者、政治家の煽動で、大切な絆が分断された。親の言うことに逆らい、社会に反抗して、親子で楽しむはずのキャッチボールも拒否した。我が国でも戦後のベビーブーマー世代に、まったく同じ風潮が広がった。
 
こうした時代背景を重ねると「フィールド・オブ・ドリームス(Field of Dreams)は興味深い作品だ。パラマウント映画「メジャーリーグ」など野球を扱った映画も多いが、この作品は野球に興味がなくても楽しめると思います。
 
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30代になったレイ・キンセラ(Ray Kinsella)は、妻アニー(Annie)の故郷アイオアに農場を買取り、トウモロコシ畑を開く。ある夕方に畑を見回っていると、どこからともなく「それを造れば彼が来る(If you build it, he will come.)」と謎の声が聞こえてくる。
 
02
謎の声「それを造れば彼が来る」を聞くレイ・キンセラ(Kevin Costner)
ユニバーサル映画配給「フィールド・オブ・ドリームス」より
 
検事からボディガードまで、多彩な役をこなすケビン・コスナー(Kevin Costner)は、今回はヒッピー世代を経験したレイ・キンセラを見事に演じている。
 
謎の声「それを造れば彼が来る」は、レイ以外の家族には聞えないようだ。やがて「それ」が野球場であると浮んでくるが、「彼」が誰なのかはわからない。
 
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農場の経営はギリギリであったが、レイが生まれてから自分の父親が平凡に一生を終えたことを思い出し、謎の声に挑戦してみたいと、妻のアニー(Annie)に打明ける。
 
06
レイ(Kevin Costner)の話を聞く妻アニー(Amy Madigan)と娘のカリン(Gaby Hoffmann)
ユニバーサル映画配給「フィールド・オブ・ドリームス」より
 
レイの妻アニー・キンセラ役はエイミー・マディガン(Amy Madigan)、一人娘のカリン・キンセラはギャビー・ホフマン(Gaby Hoffmann)。
 
トウモロコシ畑の多くを潰して、野球場を造ることは農場経営の破壊ともいえる。最初は反対していたアニーだが、レイの「父親が踏み出せなかった挑戦をしたい」との言葉で、仕方なく同意する。周辺の住民からは折角実ったトウモロコシ畑を、トラクターでつぶすレイに冷たい視線が集まる。
 
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そしてナイター設備まで整えた野球場は完成したが、季節をまたいでも誰も現れない。貯金を野球場建設で使い果たし、農場経営は行き詰まり、ローンの返済にも支障が出始めた。そんな時に、娘のカリンが球場に誰かが立っているのを見付ける。レイが父親から聞いていた「靴なしジョー(Shoeless Joe)」である。
 
08
レイの野球場に現れた往年の靴なしジョー(Ray Liotta)
ユニバーサル映画配給「フィールド・オブ・ドリームス」より
 
靴なしジョー(Shoeless Joe)ことジョー・ジャクソンはレイ・リオッタ(Ray Liotta)。大正8年(1919年)に大リーグを永久追放になり、昭和26年(1951年)に死んだはずのジョー・ジャクソンが目の前に現れた。
 
ジョーはマイナーリーグの時代にスパイクシューズが合わなかったので、裸足でバッターボックスに立って以来「靴なしジョー(Shoeless Joe)」とあだ名がついたようだ。大リーグで大活躍したジョーは、野球場の草いきれを堪能して「やっぱり野球はイイな」とグローブを握り、ファンの歓声を肌で感じて「ここは天国か」と聞く。レイが「アイオアだ」と答えると「仲間を連れてきての良いか?」と付加える。
 
野球に限らず超一流のプレイヤーが、マスコミの総バッシングを受けて引退するケースは日本でも見受けられた。これはスポーツだけでなく芸能人全般にあるだろう。しかしマスコミの評判や人格評に関わりなく、プレイヤーの実力や感性を愛したファンもいたことを忘れるべきだはないと思います。
 
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そうして翌日から名だらる大リーガーの選手が、レイの野球場に現れるようになる。一方でローンの返済が滞り、アニーの兄が銀行に土地と住宅を取られると心配する。
 
09
ローンの返済を心配するアニーの兄マーク(Timothy Busfield)、その妻、アニーの母
ユニバーサル映画配給「フィールド・オブ・ドリームス」より
 
レイには農場経営が向いていないと説得するアニーの兄マーク役は、ティモシー・バスフィールド(Timothy Busfield)。
 
娘のカリンが野球場を指して「みんなが練習している」と言う。しかしアニーの兄と家族には、野球場の選手たちが見えないようだ。その事にレイとアニーが気が付いて狂喜するが、兄一家は「おとなを馬鹿にするな」と怒る。
 
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それから再び謎の声が「彼の痛みを取り除け(Ease his pain.)」と呟く。また謎かけで「誰」の「どんな痛み」かレイにはわからない。その夜PTAの会合で、60年代若者の支持を集めたテレンス・マン(Terence Mann)の小説「The Boat Rocker」がヤリ玉にあがった。
 
10
学生運動を思い出して焚書は「自由の敵だ」と訴えるアニー(Amy Madigan)
ユニバーサル映画配給「フィールド・オブ・ドリームス」より
 
アニーがテレンス・マンを擁護する演説の間に、レイは「彼」がテレンス・マンのことであると直感する。ローン返済が行き詰まっていたのでアニーは猛反対するが、前夜レイとアニーが、エベッツ球場(かつてのドジャースの本拠地)で、ホットドッグを食べるテレンス・マンの夢を二人同時に見たことがわかる。
 
アニーは仕方なく同意して、レイはアイオアからボストンまで車の長旅に出る。60年代に若者たちを扇動した挫折から、マンはひっそりと暮らしていた。レイが60年代の若者だと知ると、自分は「もう関係ない」と追い返す。
 
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テレンス・マンは60年代の若者が変貌して行くのを見て、世俗との交流を断って子供向けのゲーム製作を行っていた。レイは嫌がるテレンス・マンを無理矢理エベッツ球場に連れていって、ホットドッグとビールで野球の試合を観る。
 
12
電光掲示板を見るレイ(Kevin Costner)とテレンス・マン(James Earl Jones)
ユニバーサル映画配給「フィールド・オブ・ドリームス」より
 
テレンス・マンは多くの作品で好演しているジェームズ・アール・ジョーンズ(James Earl Jones)。声優としても評価の高いジェームズは英語版の声を聞くのも興味深い。
 
どこからともなく「遠くても進むのだ(Go the distance.)」という謎の声が聞こえて、同時に電光掲示板に「ムーンライト・グレアム(ARCHIBALD "MOONLIGHT" GRAHAM)」そして「ミネソタ州チゾルム(CHISHOLM, MINN)」とレイに見えた。
 
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レイを見て、たとえ「間違っていてもその情熱が羨ましい」と考えたが、テレンス・マンは何も聞かなかったと答える。レイはマンには関係ないと思い、送り届けて別れようとする。その時マンは「ムーンライト・グレアムか」と口にする。
 
レイは電光掲示板の「1922年に1度だけ試合に出たが打つチャンスがなかったジャイアンツのグレアム」のことを問い詰める。マンは「遠くても進むのだ」という声も聞いていて、「ワシはもう完全にいかれてる」と言って、ミネソタのチゾルムにレイのワーゲンバスに乗って向う。
 
ところが引退後、チゾルムで医者をしていたグレアムは1972年に死んだことがわかった。その晩レイが街を歩いていると、1972年にタイムスリップしたようで、街角にドクター・グレアムが立っていた。レイが「ムーンライト・グレアム」と声をかけると、グレアムは「そんな呼び方をされたのは50年ぶりだ」と嬉しそうに答える。
 
14
夜更けの街を散歩するドクター・グレアム(Burt Lancaster)
ユニバーサル映画配給「フィールド・オブ・ドリームス」より
 
ドクター・グレアムは、映画界の重鎮で名優のバート・ランカスター(Burt Lancaster)。ランカスターはリベラルな政治活動にも積極的に参加していたが、アメリカの愛国者でもあった。
 
レイが「今でもやりたいことがあるか」たずねると、「メジャーでは一度もバットを振ることができなかった。そのチャンスをものにしたかった。」と答える。しかし「患者もいるのでチゾルムの町を離れる訳にはいかない」とレイのアイオア行きの申し出を断る。
 
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レイとマンは車でアイオアに向かうが、何のためにミネソタまで回り道をしたのか…と考え込む。その時二人の前に、ヒッチハイクの少年が現れる。
 
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ヒッチハイクで現れた若き日のアーチー・グレアム(Frank Whaley)
ユニバーサル映画配給「フィールド・オブ・ドリームス」より
 
プロ野球選手を目指す若いアーチー・グレアムはフランク・ホエーリー(Frank Whaley)。
 
少年を車に乗せると「野球選手のアーチー・グレアム(Archie Graham)」だと名乗る。二人は顔を見合わせる。そして「仕事をしながら野球ができるチームを探している」と言った。
 
レイは母親が早く死んだので父親に育てられたが、10歳に頃には「野菜を食べることとゴミを出す」のと同じように野球が嫌いになった。14歳の時には父親とのキャッチボールもしなくなった。若気の至りで父親のヒーロー「靴なしジョー(Shoeless Joe)」をひどくけなした。
 
できるだけ父親から離れた学校を選び、家には戻らなかった。父親が死んだときも葬式にだけ出た。レイの結婚相手アニーとも、娘にも会わせずに父親は死んで逝った。レイは、今になって父親に謝りたいと思った。
 
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アメリカ人にとって野球は国民的スポーツだ。それぞれの人にとってのヒーローもいただろう。レイの野球場でプレイする選手たちは、時代を越えたヒーローであり、みんなの心の中に生き続ける。
 
17-3
テレンス・マン(James Earl Jones)と、かつての大リーガーの選手たち
ユニバーサル映画配給「フィールド・オブ・ドリームス」より
 
いよいよ明日、銀行が開く時に破産が決定して、レイとアニーはすべての財産を失う。そして野球場も…。アニーの兄マークは住む家だけは残したいと手を尽したが、レイはこの条件を拒んで夢に賭けるのか?。
 
実際に「ブラックソックス事件」で、追放処分を受けた「悲運の8人」(Unlucky Eight)と呼ばれた選手たち。一方で疑惑のあったタイ・カッブなど一部の有名選手は、ホワイトソックスの運営に配慮して追放を免れた。
 
この不公平な処分を揶揄して、靴なしジョー(Shoeless Joe)は「ここにタイ・カップも来たいと言ったが、ヤツは呼ばなかった」というセリフがある。
 
みんなのヒーローが集う夢の球場…アメリカ人の夢は果して守れるのだろうか?
 
謎の声「それを造れば彼が来る(If you build it, he will come.)」の「彼」は誰なのか? 結末は、映画をお楽しみください。
 
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この映画をアメリカ人がどのように受け止めたのかは計りかねるが、同じ世代を生きた日本人から見て「アメリカ人の誇りと率直さ」を羨ましく感じた。
 
我が国の国技は相撲だが、国民の相撲に対する情熱はどうだろう。かつては双葉山、東富士、千代の山、鏡里、栃錦、若乃花、朝汐、柏戸、大鵬、輪島、北の湖、千代の富士…国民が愛してやまない錚々たるヒーローがいた。
 
戦後GHQと左翼学者による家族や世代を分断する風潮、マスコミの過度なバッシング、相撲協会の「事なかれ」が相まって、「大相撲」に対する関心が徐々に弱まってしまった。アメリカの大リーグのような日本の国技「大相撲」の復活はどうだろう。
 
相変わらずNHKが独占し、文部省が関わって相撲はつまらなくなった…という意見も多い。役人受けする相撲取りだけではなく、マスコミの餌食になっても、国民が愛せる強いヒーローは出てこないのだろうか?
 
マスコミにダーディ扱いされた「靴なしジョー」ではないが、大相撲にも真に実力のあるヒーローの登場を待ちたい。
 
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