Giant
ジャイアンツ
ジャイアンツ
1956年公開
ジョージ・スティーブンス（George Stevens）監督
ジョージ・スティーブンス（George Stevens）監督
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
女流作家のエドナ・ファーバー（Edna Ferber）が、昭和27年（1952年）に発表した「ジャイアント」Giant（邦題は「ジャイアンツ」）は、書き終えるまで12年間かけた力作。ベストセラーになった小説を名匠ジョージ・スティーブンス（George Stevens）が映画化した。
世界大恐慌と二度の世界大戦で価値観が大きく変化した1920～50年代に、テキサスに住んでいた人々の「素直な心情」を描いた映画だと思えば、興味深く楽しむことができるだろう。この物語に特定の思想信条や政治的主張を持ち込むと、途端に味気ない映画になってしまう。
特に「人種差別」や「女性自立」などは、個々のキャラクターであって、後世の人の「後付けの理屈」は映画をつまらなくする。更にその理屈を他人に押付けるのはやめて頂きたい。
緑したたるメリーランドの牧場を走る列車と、乗馬で狩りを楽しむ人々
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
どちらかといえば、大作モノに興味が湧かないのだが、この3時間20分に及ぶ「ジャイアンツ」Giantは、人間模様に別格の魅力を感じた。機会があれば大スクリーンで見ると圧巻です。
木々の生い茂る東部のメリーランド（原作ではジョージア）と荒漠たる西部のテキサスを舞台に、時代の流れと共に、人々の心情が微妙に変化していく様子が丁寧に描かれている。
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テキサスで595,000 acres（240,788 ha ≒ 神奈川県 241,600 ha）を所有する大地主、ジョーダン・ベネディクト2世（通称：ビック＝Bick）は、種馬の買付けのために東部メリーランドのリントン家を訪れる。ちなみに「Bick」には「大きい、成長した、年上の、偉い、重要な、有力な ～ 偉そうな、もったいぶる、傲慢な」（weblio）という意味があるそうだ。
車窓に広がる緑に見入るジョーダン・"ビック"・ベネディクト2世（Rock Hudson）
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
レアータ牧場主のジョーダン・ベネディクト2世は、ロック・ハドソン（Rock Hudson）28歳が落着いた役柄に挑戦している。
名門リントン家の令嬢レズリーは、読んだ本の知識だけで、控え目なモノ言いのビックを圧倒する。レズリーと結婚を予定していた英国貴族デヴィッド・カーフリー卿も、レズリーの奔放な積極さに翻弄されているようだ。
レズリー（Elizabeth Taylor）とカーフリー卿（Rod Taylor）手前が妹のレイシー（Carolyn Craig）
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
物おじしない性格のレズリー役は、たぐいまれな美貌のエリザベス・テイラー（Elizabeth Taylor）23歳が好演している。カーフリー卿はロッド・テイラー（Rod Taylor）、レズリーの妹レイシーはキャロリン・クレイグ（Carolyn Craig）。
レズリーは愛馬（War Winds）を通してビックと出会って、たちまち恋に落ちる。二人は結婚式もせずにベネディクト専用客車に乗ってテキサスまでの新婚旅行となる。印象的なのはレズリーが「テキサスはまだ？」と聞くと「とっくにテキサスだよ、８時間まえからだ」とビックが答える。
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二人は、緑豊かな東部から、砂塵の舞うテキサスのベネディクト駅に降り立つ。家までは鉄路から更に車で60マイル（90km）を走り抜ける。
水平線まで続く道を走る二人の乗った自動車
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
この圧倒的なスケール感は、ディープサウスならではの光景だと言えよう。我が国では想像もできないが、アメリカ南部は只々広い。
ベネディクトの経営するレアータ牧場では、ジェット・リンクが使用人として働いている。
車を移動するジェット（James Dean）とラズ、レズリー、ビック
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ビックに反抗的な牧童ジェット・リンクは、ジェームズ・ディーン（James Dean）が演ずる。この映画がジェームズ・ディーンの最後の作品となった。ビック、レズリー、ジェットの3人が映画の中心人物。
ベネディクト家にはビックの姉で、一家を切盛りするラズ・ベネディクトが同居している。ラズはテキサス生まれで反抗的なジェットの良き理解者である。ビックがジェットをクビにしようとするが、ラズがかばって辞めさせない。
粗末な朝食を食べるレズリーとそれを見るラズ（Mercedes McCambridge）
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
男勝りの姉、ラズ・ベネディクトはマーセデス・マッケンブリッジ（Mercedes McCambridge）。テキサス女のたくましさと情感を見事に演じている。
レアータ牧場には、白人カウボーイのほか、多くのメキシコ人が働いている。スペイン語を話せないレズリーに、ラズは自分が女主人であることを言って聞かせる。レズリーのお披露目パーティを開き、50マイル（80km）離れた隣りの牧場主の娘で、幼な馴染みのバシタイも参加した。
ビックに紹介されて複雑な心境のバシタイ（Jane Withers）
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ビックに気のあったバシタイはジェーン・ウィザース（Jane Withers）が、陽気で気さくな「西部の女」になり切っている。
ほとんどストーリーに関係のない脇役ながら、このバシタイこそ物語のリアリティを支えているのかも知れない。小牛の頭部のバルバコア（Barbacoa＝バーベキュー）で、焼いた肉に生々しい脳みそをかけられてレズリーが失神する。
こうしてテキサスでの暮しが始まった。勝気なレズリーは翌朝から早起きして、テンガロンハットをかぶり、スカートをパンツとブーツに履き替えて、「二度と失神しない」とビックに誓う。
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レズリーは愛馬（War Winds）に乗って、ビックと共に1000頭近い牛追いの様子を見て、「I'm a tough Texan now.（私はテキサス女よ）」と胸を張る。そこでビックから牛は更に49,000頭いることを聞かされる。
家に向かうレズリー（Elizabeth Taylor）とジェット（James Dean）
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
姉のラズ・ベネディクトを送ってきたジェット・リンクに頼んでレズリーを家に送り返す。ジェットはレズリーの美しさに次第に心を引かれる。
乗馬に自信のあるラズはレズリーの愛馬（War Winds）に強引にまたがる。ラズは思い通りにならない馬に何度も拍車を使うが、元々気の荒い馬は更に暴れまわって疾走する。
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一方レズリーは帰宅途中でメキシコ人の使用人が暮らす村（Vientecito village）の存在を知り、病気の母子を見舞う。同じ頃、ラズは暴れるWar Windsから落馬して運ばれてくるが、医者の看病の甲斐もなく息を引き取る。
ビックと判事のホワイトサイド（Charles Watts）がジェットを説得する
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
情にもろかったラズの遺言で、ジェットに「水牛の池（Buffalo Wallow）」周辺の土地を譲るとあった。600ドルの価値ある土地だが、ビックは土地を少しでも分割したくないので、1,200ドルの現金で済ませたいと持ちかける。
判事のホワイトサイド（Oliver Whiteside）も加わって説得するが、ジェット・リンクはこの申し出を「ラズさんの残したものに賭けてみたい」と言って現金の受け取りを断る。ジェットは自分の土地を柵で囲って「リトル・レアータ」と名づけ、石油の採掘を始める。
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やがてビックとレズリーの間に男女の双子が生まれ、父の名を継ぐジョーダン3世（JordanⅢ）とジュディ（Judy）とした。その後さらに女の子が誕生し、ビックの姉の名前をとってラズ2世（LuzⅡ）と命名する。
負けん気の強いレズリーの最大の理解者はバウリー叔父さん（Uncle Bawley）で、ビックの後継ぎ教育に対して「子供が思ったように育てろ」とレズリーを慰める。
オルガンを弾くバウリー叔父さん（Chill Wills）とレズリー
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
バウリー叔父さん役は、ミュージシャンでもあるチル・ウィルス（Chill Wills）。男同士が集まって政治の話をしているところにレズリーが口を挟もうとすると、バウリー叔父さんでさえ快く思わなかった時代である。
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大平原の灼熱の太陽の元で、ジェット・リンクは油脈をさがしてボーリングを繰返す。富を夢見ながらも先の見えない状況に、ジェットは酒をあおりながら作業を続ける。
ボーリングのパイプから噴き出した原油に驚くジェット
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
経費がかさみ追い詰められていたジェットだが、ついに油田を掘りあてる。そして彼は金持ちの仲間入りをした。周辺の牧場主から採掘権を手に入れ徐々に拡大し、社名を「ジェッテキサス石油（JETEXAS）」と改名する。
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ジェットは巨万の富を手にして、病院を寄付するなどテキサスの著名人に名を連ねるまでになる。一方、ビックは牧場経営を続けて、石油に手を出すことを拒んでいた。
大牧場は継がないとビックに言うジュディ（Fran Bennett）とボブ（Earl Holliman）
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
やがてベネディクトの子供たちが成人して、ジョーダン3世は牧場主ではなく医者の道を選ぶ。テキサス大学の牧畜科を出たジュディは牧童のボブ（Robert Haskell "Bob" Dace）と結婚するが「大きな牧場は効率が悪い」と言ってレアータ牧場の後継を拒否する。
ビックはレアータ牧場の後継者が見つからないので、仕方なくジェットに折れて石油の採掘権をゆだねる。丁度アメリカは世界に石油を輸出していた時代である。
昭和16年（1941年）日本の真珠湾攻撃によってルーズベルト大統領が第二次世界大戦に参戦。レアータ牧場からは幼い時に命を救ったメキシコ人のアンヘル2世（Angel Obregon）と、ジョディの夫ボブが出征した。
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戦争が終わってジョディの夫ボブは無事に帰国したが、幼い時にレズリーが命を救ったメキシコ人のアンヘル2世は、国旗に包まれた棺での帰国となった。
アンヘル（Sal Mineo）の帰国を伝える新聞
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
アンヘル2世はサル・ミネオ（Sal Mineo）。アンヘル2世の葬儀でアメリカ国歌をメキシコ人の聖歌隊に歌わせたことが問題になったようだが、アメリカの軍人として出征して戦死したのに、何処の国歌を歌えと言うのか理解に苦しむ。
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レズリーの紹介で、メキシコ人村（Vientecito village）で医師を続けるビラロボス（Villalobos）を妹のホアナ（Juana）が手伝っていた。ボブが帰国した日に、ジョーダン3世（JordanⅢ）はホアナ・ビラロボス（Juana Villalobos）とメキシコ人教会で結婚式をあげる。
ジョーダン3世（Dennis Hopper）とホアナ（Elsa Cárdenas）の結婚式
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
物静かなメキシコ人のホアナはエルザ・カルデナス（Elsa Cárdenas）が演じている。
公民権運動が盛んになる10年程前なので、ビックとレズリーは当然驚いて躊躇したが、その場で二人の結婚を承諾する。
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ジェットはテキサスの大都会ダラスにホテルと飛行場を建設する。オープニングには全国ネットのラジオ中継が入り、各界の著名人や芸能人と共に、ベネディクトの一家も招待を受ける。少なからずジェットに心を寄せていたベネディクト家のラズ2世がパレードの女王に扮するのを見て、ビックが激怒をする。
ジェット（James Dean）と話し込むラズ2世（Carroll Baker）
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ワーナー・ブラザース配給「ジャイアンツ」より
ラズ2世には、ジェームズ・ディーンと同じアクターズ・スクール出身のキャロル・ベイカー（Carroll Baker）で、二人の掛合いが、静かな見せ場になっている。
当時のテキサスでは人種差別が色濃く残っていたので、ジョーダン3世の妻とはいえ、ホアナへの従業員の対応は厳しかった。ジョーダン3世は従業員に対して怒るが、ジェット社長の指示だと返される。
物語はまだ続くが、西部の大地主ベネディクト家と周囲の人々を通して、それぞれの性格や考え方と人間模様、更に時代の変化を克明に描いている作品だと思います。どこかの公共放送の「朝ドラ」ような粗雑で単眼的な作りだけではない。
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よく「国民のレベルが政治家のレベル」といわれるが、言換えれば「観客のレベルが映画のレベル」と言えそうだ。この映画「ジャイアンツ（Giant）」は昭和31年（1956年）に配給された。
ドメスティック（家庭劇）・リアリズムの巨匠といわれたジョージ・スティーブンス（George Stevens）が脚本、監督であったことが、大きな要因であることは間違いない。スティーブンスの計算のもと、当時23歳のエリザベス・テイラー、28歳のロック・ハドソン、24歳のジェームズ・ディーンを、メイクと演技で老け役までこなしたのだから推して知るべしだろう。
クランクアップ（撮影終了）後、スティーブンスは編集作業だけで1年間をかけたようだ。明治37年（1904年）生まれで、戦前から多くのフィルム作品を残しているが、ナチス・ドイツの戦争犯罪の証拠となった「ダッハウ強制収容所」の記録は有名だ。余談だが「極東軍事裁判」では、こうした記録は皆無であった。
オイルまみれのジェット（James Dean）が
巨万の富を手にした瞬間
巨万の富を手にした瞬間
登場したエリザベス・テイラー（Elizabeth Taylor）、ロック・ハドソン（Rock Hudson）、ジェームズ・ディーン（James Dean）、後半はキャロル・ベイカー（Carroll Baker）、デニス・ホッパー（Dennis Hopper）などが演技力はもとより、それぞれの役者が個性豊かに表現している。
更にマーセデス・マッケンブリッジ（Mercedes McCambridge）、チル・ウィルス（Chill Wills）、ジェーン・ウィザース（Jane Withers）、ロッド・テイラー（Rod Taylor）など錚々たる演技派が脇を固めている。
残念なことにジェームズ・ディーン（James Dean）はこの撮影終了の1週間後に、カリフォルニアの交差点で交通事故で亡くなった。
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一つだけ確かなことは、アメリカ合衆国は、ニューヨーク、ワシントン、カリフォルニアだけではない…と言うことだろう。都市集中が進み肥大化する一方で、米国内で「コロニア（Colonia）」と呼ばれるインフラ未整備の地域が現在も多数残っている。
個人的には、ディープサウスをレンタカーで走り抜けた時に、雪村いづみさんの歌った「ジャイアンツ」の歌詞で、「なぐさめと勇気を与えてくれる、山よ川よ星の光よ、恋しテキサス…」が耳から離れませんでした。
