The Last of the Mohicans
ラスト・オブ・モヒカン
1992年製作
マイケル・マン(Michael Mann)監督
 
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20世紀フォックス配給「The Last of the Mohicans」より
 
北米大陸の覇権を競って、イギリス軍とフランス軍が戦い、これに先住民であるインディアンが巻き込まれた。そしてモヒカン族の血統が絶える。
 
決して一級作品とは言い難いが、英領アメリカの戦いの中で、現在はマイノリティであるインディアンを主人公にしたストーリーの映画だけに一見に値すると思う。
 
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特筆すべきは、最後のモヒカンとなるチンガチェック役のラッセル・ミーンズ(Russell Means)だ。 偉大なチンガチェックは、清廉潔白で力強いインディアンの酋長として描かれている。
 
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ラッセル・ミーンズ(Russell Means)
ラッセル・ミーンズ(Russell Means)は、インディアン人権向上運動(American Indian Movoement=AIM)として、インディアンの権利回復要求運動に参加している活動家だ。
 
老インディアン役で「ナチュラル・ボーン・キラーズ(Natural Born Killers)」に出演しているほか、ディズニー映画「ポカホンタス」の声優も務めている。
 
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18世紀のイギリスは、現在の超大国アメリカのように、世界各地で覇権を争って衝突を繰り返していた。イギリス・プロイセン側と、フランス、オーストリア、ロシア、スペイン、スウェーデンの列強国が、ヨーロッパを中心に1756年~1763年に戦った「七年戦争」。
 
ムガル朝インドでは、南インド東海岸の貿易拠点や荷物の集散地をめぐって、イギリスとフランスが、大洋上の陸海に渡る戦いが繰り広げられた。
 
新大陸の北アメリカでは、大陸の覇権をイギリスとフランスが、インディアンを巻き込んでの争いとなった。
 
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フレンチ・インディアン戦争 - 赤枠が映画の舞台となった場所
 
この「フレンチ・インディアン戦争」(French and Indian War=1755年~1763年)が、この映画の背景になっている。
 
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駅馬車を襲撃する悪役、アパッチ族
ユナイテッド・アーティスツ配給
「駅馬車(Stagecoach)」より
ジョン・ウェイン(John Wayne)主演の「駅馬車(Stagecoach)」などに代表される、一昔前の西部劇では、インディアンが「白人を襲う憎むべき敵」として描かれていた。
 
こうした対立構造は「マニフェスト・デスティニー」(Manifest Destiny)に起因していることは明らかだ。
マニフェスト・デスティニーの肯定は、アメリカで製作した映画が、白人社会に受け入れられて、興行的に成功するか否かの分水嶺になっていたと聞く。 
 
この映画で、マニフェスト・デスティニーによって一方的に排除されてきた「インディアン」をテーマとしている点は、画期的なことだ。 
 
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主人公のホークアイ(Daniel Michael Blake Day-Lewis)は、モヒカン族に拾われて育てられたものの、元々白人であるという設定がハリウッド的で可笑しい。 
 
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チンガチェック(Russell Means)とホークアイ(Daniel Day-Lewis)
20世紀フォックス配給「The Last of the Mohicans」より
 
もうひとつ、ホークアイ役のダニエル・デイルイス(Sir Daniel Day-Lewis)は、その後映画「ギャング・オブ・ニューヨーク」で、ギャング団「ネイティブ・アメリカンズ」(アメリカで生まれ育ったプロテスタント系白人グループ)を率いるビル・ザ・ブッチャー役を演じている。Oh, my God !
 
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現在のニューヨーク州ジョージ湖岸にあったウィリアム・ヘンリー砦の英軍指揮官マンロー大佐(Maurice Roeves)のところに、その娘のコーラ(Madeleine Stowe)とアリス姉妹が本国からやってくる。
 
コーラは、許婚(いいなずけ)のヘイワード少佐(Steven Waddington)に幻滅し、結婚を断って、ホークアイと結ばれる。 
 
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フランス軍モンカルム侯爵とイギリス軍マンロー大佐の和平会談
20世紀フォックス配給「The Last of the Mohicans」より
 
イギリス軍のウィリアム・ヘンリー砦は、数に勝るフランス軍の手に落ちる。そしてイギリス軍マンロー大佐とフランス軍モンカルム侯爵による、儀礼的な和平会談が行なわれる。 
 
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フランス軍に付いて戦ったヒューロン族を率いるマグア(Wes Studi)は、納得できずに、両親を殺された復讐をモンカルム侯爵に訴える。
そしてマグアは、モンカルム侯爵の入れ知恵で、退却するイギリス軍を待ち伏せする。 
 
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ヒューロン族に襲われるイギリス軍とその家族 
20世紀フォックス配給「The Last of the Mohicans」より
 
ヒューロン族は、敗退中のイギリス軍を攻撃して殲滅(せんめつ)する。マンロー大佐は、マグア(Wes Studi)により心臓を刳(えぐ)り貫かれる。 
 
ヒューロンの戦士マグアは、英軍指揮官マンロー大佐の血統を絶やすため、生き残ったコーラとその妹アリスの命を狙い、追いかけて捕まえる。 
 
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ホークアイとチンガチェック、チンガチェックの実の息子ウンカス(Eric Schweig)は、コーラとアリス姉妹を救出するが、そのときモヒカン族の血を継ぐウンカスが殺され、妹アリスは自害する。 
 
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チンガチェック(Russell Means)が息子ウンカスの仇、マグア(Wes Studi)を殺す 
20世紀フォックス配給「The Last of the Mohicans」より
 
そして、戦いが終って「モヒカン族の血統は途絶える」という、何とも遣る瀬無い物語だ。 
 
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この映画では、イギリスから派兵された傲慢(ごうまん)な軍人と、植民地の善良な白人を明確に分けて表現している。 
こうした構図は、この後に起こるアメリカ独立戦争(1775年4月-1783年9月)の正当化に起因していると思われる。 
 
更に、白人と仲の良い善良インディアンと、白人に敵意丸出しの粗暴極まりないインディアンが登場する。あまりにも解り易い対立構造だ。 
 
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チンガチェック、ホークアイ、コーラ(Madeleine Stowe) 
20世紀フォックス配給「The Last of the Mohicans」より
 
言い換えれば、「イギリス軍は横暴で、植民地の白人は善良で、インディアンの中には悪人もいた」という組立てで、白人は「悪いインディアンを掃討し、インディアンの血を絶やしたのは、悪いインディアンである」という勧善懲悪の見せ方である。
 
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ニューヨーク州のハドソン川上流、キャッツキル山地に住んでいて、狩猟や漁猟で生活していたモヒカン族は、実際にはヨーロッパ人が持ち込んだ天然痘、麻疹、ジフテリア、猩紅熱といった病気により、多く死んでいった。 
 
生き残ったモヒカン族の一部は、デラウェア族とイロコイ連邦の部族など、付近の部族に避難を求めた。 
他の多くの者は、ストックブリッジ(現マサチューセッツ州)に移住した。現在も、ストックブリッジモヒカン族として生き残っている。
 
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ジェームズ・クーパー
映画の原作は、白人小説家ジェームズ・フェニモア・クーパーの1826年の長編歴史小説5部作「レザーストッキング物語」シリーズの第2作「モヒカン族の最後(The Last of the Mohicans)」だ。
 
この小説のために、多くの白人は「モヒカン族はすでに絶滅した」と思い込んでいた。
 
彼らは、役所や関係省庁の対応、権利問題の交渉でも門前払いを喰らうことが多く、この小説にインディアンは「迷惑を受け続けている」と言っていたそうだ。
 
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また、元々農業を営む定住性の強いと云われたヒューロン族は、カナダのオンタリオ州南部、ジョージア湾周辺で暮らしていたが、白人の入植者によって、長い間、侵略と迫害を受けてきた。 
 
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15~17世紀頃のモヒカン族とヒューロン族の居住地区(地図は現代)
 
一方でインディアンは部族間の対立が激しく、「文明と武器を手に入れるために白人に接近した」とも言えるが、結局は白人による土地の略奪、人種淘汰、虐殺が行なわれた事実を見過ごすことはできない現実だ。
 
ヒューロン族のマグア(映画上では悪役)の家族が、殺されたためのイギリスへの復讐がわずかに描かれている。
そもそもヒューロン族はイギリスに侵略されたため、フランス側に付いて戦った訳であり、一方的な「悪役」という描き方に、歴史的に見れば違和感を感じるだろう。 
 
人種、民族間の対立と云う尺度だけでなく、改めて、ここがアメリカ白人社会の、インディアンに対する限界なのかと思わされた映画でもある。
 
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