今や「グローバリズム」は世界の常識のように扱われているが、今回、左翼思想を探っていたら、アナキズム(無政府主義)と重なっている事が見えてきた。
 
国や政府の存在を否定する無政府主義では、良く考えてみれば国境を超越した「グローバリズム」なんだろう。
 
学生時代のキャンパスで、アナキストと云えば「極左暴力集団」と云う印象があり、普通に「あいつはアナーキーだからヤバイ」などと言っていて、ジャズやロックなどの音楽でも、「アナーキー・バンド」があった。この場合は「無秩序」の意味に解釈していた。
 
一般的な国民には理解を超えているが、左翼的な発想で「国や政府を否定する」ところから始まっている訳だ。
 
一応、グローバリズムの対義語は、ナショナリズムと云えようが、グローバリズム全盛の先生たちから、民族主義、国家主義、国民主義、国粋主義などと、あまり良い邦訳は付けられていないようだ。
 

ところで無政府主義は、「個人主義的無政府主義」と「社会的無政府主義」に大別されるようだが、大航海時代(15世紀~17世紀)の只中で始まった個人主義的アナーキズムが源流で、集産主義的(社会的)アナーキズムは産業革命で資本が集約された18世紀以降に生まれたようだ。
 
同じ、グローバリズムには違いないが、個人主義的アナキズムは「自由主義」に代表され、社会的アナキズムは「共産主義」に代表されるだろう。
 
ここで忘れてならない事は、どちらも無政府主義…つまり国家を否定する事だと云うことになる。だから、「右だ、左だ」、と云う観念では理解しきれない訳だ。
 
山川均 高畠素之訳「資本論」 神田錦輝館 日本改造法案大綱 復興亜細亜の諸問題
山川均 高畠訳「資本論」 神田錦輝館 日本改造法案大綱 復興亜細亜の諸問題
共産党のソ連、ナチス党のドイツ、ファシスト党のイタリアなどを除いて、戦前のほとんどの国では無政府主義運動を反逆思想と捉えていた。コミンテルン日本支部準備会を立ち上げた山川均、錦輝館事件の堺利彦、「資本論」を全訳した高畠素之、「日本改造法案大綱」を著した北一輝、「復興亜細亜の諸問題」の大川周明など、挙げればキリがないほどだった。
 
以下、個人主義的無政府主義、社会的無政府主義の順に、解った範囲で並べてみたが、年度に誤差があるのはご容赦頂きたい。
 

 
個人主義的無政府主義
 
ジョン・ロック  John Locke イギリス 1682年
リバタリアニズム 完全自由主義、自由至上主義などと訳され、私的財産権には、自己所有権原理を置く。私的財産権が政府や他者により侵害されれば個人の自由に対する制限または破壊に結びつくとし、政府による徴税行為をも基本的に否定した。
 
アダム・スミス  Adam Smith イギリス 1776年
古典的自由主義(リベラリズム) 個人の自律権を強調し、財産権が個人の自由にとって不可欠であると考える。初期の自由主義者は、重商主義が大衆の幸福を犠牲にして特権階級を富ませるものであるとみなした。
 
ウィリアム・ゴドウィン  William Godwin イギリス 1793年
無政府主義の先駆者 神の王国が倫理的共産主義であるとして、政府のない社会・富の平等な分配、理性と説得により社会の成員の合理的な同意を得る事とした。
 
ピエール・ジョゼフ・プルードン  Pierre Joseph Proudhon フランス 1863年
無政府連合主義 「無政府主義の父」と云われ、「連邦主義的原理と革命党再建について」で標榜した。
 
マックス・シュティルナー  Max Stirner ドイツ 1844年
個人主義的アナキズム 実存主義の先駆 人間的共通性にも解消出来ない交換不可能な自己の自我以外の一切のものを空虚な概念として退け、自己が、自ら有する力によって所有し、消費するものだけに価値の存在を認めるエゴイズム思想。
 
ハーバート・スペンサー  Herbert Spencer イギリス 1852年
社会進化論 社会学の創始者、有機体のメタファーを用いて社会を「システム」として把握し、これを、維持、分配、規制の各システムに分かち、社会システムの「構造と機能」を分析上の中心概念とする。
 
ヘンリー・デイヴィッド・ソロー  Henry David Thoreau アメリカ 1882年
個人主義的無政府主義超越論的哲学 先天的とは異なり「如何にして我々は先天的認識が可能であるのかその可能性と根拠についての問う認識」のことであり、超越論哲学はまさにこうした根拠を問う哲学。
 
レオナルド・ホブハウス  Leonard Trelawny Hobhouse イギリス 1911年
社会自由主義(ソーシャルリベラリズム) 公民権拡大と同時に、失業、健康、教育などの経済的・社会的課題に対する国家の法的な役割を重視する。個人主義や資本主義が、公共の精神や連帯の認識によって加減された時に最良の状態になると考える。
 
ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス  Ludwig von Mises アメリカ 1930年代
古典的自由主義(右派リバタリアニズム) 法の下の平等や公民権は受け入れるが、成果の不平等は不可避であると考えて、結果の平等を否定、自己所有権尊重の観点から機会の平等も否定する。
 
マレー・ロスバード  Murray Newton Rothbard アメリカ 1950年代
無政府資本主義(リバタリアン・アナキズム) 右派リバタリアンの中で、自由市場の自治を重視し、国家の廃止を提唱。警察や裁判所など全ての治安サービスは「民間」によって提供され、通貨は公開市場で民間の競合する銀行によって供給される。
 
ノーム・チョムスキー  Avram Noam Chomsky アメリカ 1953年
左派リバタリアニズム(個人の自由と社会的公正) 反権威主義、特に社会主義運動では反資産家主義。古典的自由主義や市場自由主義を排除して、自治と平等主義の間の関連と非干渉主義と自由市場の社会変革の潜在能力を重視する。

 
社会的無政府主義
 
ミハイル・バクーニン  Mikhail Alexandrovich Bakunin ロシア 1836年
無政府集産主義(アナルコ・コレクティビズム) 国家と生産手段の私的所有の廃止を主張する革命的基本原則。但し、プロレタリア独裁に反対した。
 
フェルディナント・ラッサール  Ferdinand Lassalle ドイツ 1864年
国家社会主義 国家や政府による重要産業の国有化と統制経済を柱として政治権力獲得によるプロレタリア独裁を認めるものが多かったが、普通選挙によって国家や政府が労働者階級の権利や利益を反映して社会主義政策を進めることを主張。
 
ピョートル・クロポトキン  Pjotr Aljeksjejevich Kropotkin ロシア 1892年
無政府共産主義 能力に応じて働き、必要に応じて受け取るという原理。個人と社会の相反する両者の溝が埋まると捉えている。
※ゴシップ紙『萬朝報』記者の出身の幸徳秋水(日本社会党→社会革命党)
※東京日日新聞の記者出身の八木秋子(無政府共産主義団体の農村青年社に参加)
 
カール・マルクス  Karl Heinrich Marx ドイツ 1846年
科学的社会主義(マルクス主義) 資本を社会の共有財産に変えることで、階級対立も、諸階級の存在も、階級支配のための政治権力も消滅し、すべての人の自由な発展の条件となるような協同社会がおとずれるとした。
 
サム・マイアウェリング  Samuel "Sam" Mainwaring イギリス 1903年
無政府組合主義(アナルコ・サンディカリスム) 社会主義の一派であり、労働組合運動を重視する無政府主義のこと。
※自由恋愛論者で作家の大杉栄(アナ系社会主義運動)
※キリスト教の牧師出身の八太舟三(自ら「アナキズムの宣伝者」とした)
 
ウラジーミル・レーニン  Urajiimiru iriichi Reeninn ロシア 1905年
マルクス・レーニン主義 マルクス主義の一つの潮流であり、ボリシェヴィズム(ロシア社会民主労働党の左派)、ロシア・マルクス主義の中心で、レーニンの死後、ヨシフ・スターリンによって提唱され、定式化された。
 
シャルル・モーラス  Charles Maurras フランス 1905年
アクション・フランセーズ(反ユダヤ主義) 実際に王権を回復するのが目的というより、フランス第三共和政の衰退に対する批判として、君主制を掲げていた。
 
ジョルジュ・ソレル  Georges Sorel フランス 1908年
革命的サンディカリスム マルクス主義の修正とも言える思想で、ゼネラル・ストライキ、ボイコット、サボタージュによって資本主義を分裂させ、労働者による生産手段の統制をもたらすことに向けられた。
 
アドルフ・ヒトラー  Adolf Hitler ドイツ 1919年
国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス) フェルディナント・ラッサールの国家社会主義に、シャルル・モーラスをアクション・フランセーズを実践した。
※マルクスの『資本論』日本初の全訳した高畠素之国家社会主義運動の旗手)
※日本共産党→無産党の赤松克麿日本国家社会党
 
ベニート・ムッソリーニ Benito Mussolini  イタリア 1919年
結束主義(ファシズム) 伝統的な国家を基礎としない、新しいナショナリストの権威主義的な国家の作成。労働組合主義、個人主義的自由主義、国家社会主義者まで含めて社会的関係を変革できる、統制され、複数の階級を持つ国家的な基盤。
 
マックス・ホルクハイマー  Max Horkheimer ドイツ 1930年
フランクフルト学派 マルクス主義を進化させ、これにヘーゲルの弁証法とフロイトの精神分析理論の融合を試みた批判理論によって、啓蒙主義を批判する社会理論や哲学を研究したフランクフルト大学のグループで、ルカーチ・ジェルジカール・コルシュ福本和夫リヒャルト・ゾルゲなどが参加した。バイエルン州を中心として台頭したナチスに対抗して対立を繰返したが、1933年以降に亡命、分散した。
※一部は1960年代には戦後の左翼運動を支えた新左翼にも影響を与え、無政府主義、マルクス主義(トロツキズム)、毛沢東主義などのイデオロギーと民族問題、男女差別問題などのマイノリティー擁護を運動の2つの柱にしている。

 
政管学界、マスコミ、一部活動家は、100年以上前の無政府主義(アナーキズム)を未だに引きずっている訳だ。このグローバリズム=アナーキズムの亡霊は、何時になったら解消するのだろうか?
 
アメリカやイギリスの左派を中心とする左派リバタリアニズム(個人の自由と社会的公正)、中国共産党やドイツ左派などを中心とするフランクフルト学派(マルクス主義+ヘーゲル弁証法+フロイト精神分析理論)が、現在の戦略的支柱になっているようだ。
 
また芸術家を気取る連中にアナキズム信仰者が多いのは、自らの作品の「無秩序」を自由とはき違えている事も見かける。
 
ほとんどの日本国民は戦前、戦後を通じて「無政府主義」を否定してきた。日本におけるアナーキストは、断じて「普通の市民」ではない。
 
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