武田邦彦
武田邦彦 先生
いつも、世の中の事象を科学的に分析して、多角的な視点で論説される武田邦彦工学博士だが、気象予報士の半井小絵さんを相手に話した内容が、極めて腑に落ちる内容だった。
 
全てではないが、幾多の市民運動という幻想は、解り易い「敵」を作って、容赦のない徹底的な攻撃を繰り返す結果を生み出す。
 
小泉元総理にワン・フレーズ・ポリティクスをアドバイスしたのは電通なんだそうだが、最近は、左翼の「安倍やめろ!」や、小池都知事の「都議会のドン」やら、「解り易い敵」を作るこが流行っているようだ。
 
ワン・フレーズ・ポリティクスを、広告では「キャッチ・コピー」、政治的には「スローガン」だろうが、ここに「敵」の名前を入れ込むのは、左翼の常套手段。
 
特に、一部マスコミの報道は「敵」を鮮明することで、政治をおもちゃにしている帰来もある。
 
あまりの面白さに、8月25日(金)放送のDHC-TV「真相深入り!虎ノ門ニュース」の中の「沖縄2紙が日本共産党と共闘!市民運動と共産党が潰す沖縄!」が放送された。
 
武田邦彦先生と半井小絵さんによる「四日市と水俣見れば一目瞭然!」の話題を書き起こしてみた。
 

 
日本の四大公害事件と云うのが有りますね。
四大公害事件の中で、特に大きいやつが水俣病、それから四日市喘息(ぜんそく)。皆さんが知っているんですね。
 
水俣病は、チッソと云う会社が水銀を水俣川に流して、それを食べた魚が体内で金属水銀をメチル水銀に変えて、メチル水銀と一緒に魚を食べた人が脳障害になる。これが大体、被害規模1万人ぐらい。
 
四日市喘息は、当時、四日市市に工場が出来て、そこから煙突が低かったのですね。低い煙突から煙を出していたら、その煙を吸った附近の最初は工場労働者が喘息になった。
 
それで煙突を高くしようと、煙突を高くしたら今度は遠い煙突で、遠くに着地したので市民が喘息になった。これも大体1万人規模。
まあ、こう云ったのが大きなあれ(経過)。
 
世界的にも、1953年のロンドンの事故が1万人、それから1963年の水俣病、これも大体1万人、四日市喘息は、それに続くんですが、これも1万人。
と云うふうに1万人規模の公害が立て続けに起こってきて、それで我々は人間が出すものは公害と云う形で、人間に被害を及ぼすだってことが解った訳ですね。
 
今で云えば、そんな「バカなこと」と云うけれど、当時は解らなかったんですね。ロンドン・スモッグって云うのは解らなかったんですよ。
 
なんでこんなに煙っているのかと。どのぐらい煙ったと云うと、映画館がすべて閉鎖されたんだよ。客席からスクリーンが見えなくなったから、そうそう。だから1万人も死んだ。
 
それでね、ところがね、その後、今になってなに環境学者たちが、何が起こったかと云えば、水俣市は問題が解決せずに、水俣市はほとんど全滅しちゃった。今行ったらわかるけど、寂れた市になりました。
四日市は、今もすごく栄えていていて、それで問題も解決している。
 
それで、この二つはね、主たる対策をやった人が誰かと云うこと、水俣は市民団体、四日市は通産省なんです。まあ経団連と云ってもいいけど、通産省、経団連。
 
それでね、どう云うふうなって水俣市民はやられちゃったかと云うと、市民団体は問題を解決せずに、敵を作るんですよ。チッソが悪い。チッソが悪い。
それで「補償金を出せ」とこうなったわけです。
 
ところが問題を解決せずに、補償金だけ出させると、どう云うことになるかと云うと、会社はつぶれ、問題は解決せず、ただお金を貰うけど、病気で寝ている人が増える、そういう状態になって水俣は壊滅した訳ですよ。
 
あの時、処置はいくらでもあった。それからチッソが悪いかと云えば、全然チッソは悪くない。
これはこの前も言ったけど、あれは国が許可して、県が許可して、それで「垂れ流した」と云うけれど、許可範囲で流している訳だ。
 
それまでは水銀と云うのは全然毒物とは思っていなくて、僕なんかも水銀を歯なんかに全部水銀を詰めた訳だから、歯医者さんがね。
そういう時代のことです。
 
で、水俣病と云う名前が付いているのは、それまでは水銀は毒物として扱っていなかったけど、水俣で病気が起こったので、初めて水俣病。
だから水銀何とか症とか、有機水銀毒症とかと呼ばないのは、その水俣が初めてなものだから、それで水俣病と名前が付いてるわけですね。
 
ですから、あれはやっぱり「水銀の除去装置」をすぐ作れば、漁民も被害を受けず、会社も大丈夫、市も大丈夫だったんですよ。
 
ところが市民運動って云うのは、必ずこうなるんです。要するに敵を作って、そこを非難する訳。
タバコをやめろとか、必ずこういう方向に行くんですよ。だからフィルターを良くするとか、そういう方向にいかないんですよ。
絶対行かない。改善じゃないんですよ。
 
ところが四日市はね、まあ偉い人もいたんだけれど、まあそう云う個人的な名前よりかね、通産省と経団連とか、地元の市が、その汚いものが出ているなら、汚いものを減らそうよと言ったわけですよ。
当たり前だけど。
 
それで半井さんみたいに見識あっても、水俣はチッソって名前を知ってるでしょう。ところが四日市で原因物質を出した会社の名前を知っている?
知らないでしょう。それでね、要するにね、水俣では敵を責めたんです。
 
だからみんながチッソって名前を知っていて、それで小学校の教科書でも「チッソが垂れ流し」と書いてある。
 
ところが四日市では、なんて書いてあるかと云えば「企業が煙を出した」と。
 
半井「一社じゃないからじゃないですか?」
 
いや違う違う、主要な企業は実は二社ぐらい有るんですよ。
 
ところが彼らが悪いんじゃないんですよ。彼らも解らなかったんですよ。第一低い煙突を作ったと云うことは、煙が有害じゃないと思っていたから、低い煙突使ってた。
それが亜硫酸ガスには毒性があった訳だね。
 
そこで何をやったかと云ったら、脱硫技術、脱硝技術、活性汚泥技術を組み合わせて、それでやったんです。
その結果、どういうことが起こったかと云うと、生産量を三倍にして、空気は千分の一の毒性なさ。だから空は綺麗になって、みんなは喜んだ訳。
 
だから四日市は、たぶん日本で市としては、工業出荷額一人当たりたぶん最高だと思う。850万(円)ぐらいだと思う。
 
だからね、結局、その物事を可決するような方向に心が行くか、そのバッシングしてやっるけるってね。
四日市は、今繁栄している、それで水俣はすっかりダメになった。住んでいる人に取ってみれば、チッソを敵にして何になるの。お金がとれる。
お金がとれても自分が病気で寝ていたらどうすんの。
 
で、四日市ではね、今生きている50歳ぐらいの人に聞くと、小学生の時、「自分の友達は喘息で時々休んでいた」と云う体験を持っている。
今でも喘息で苦しんでいる人もいるが、ほとんどいなくなった。空気は本当に綺麗ですよ。今の子供で喘息なんて云う子供は四日市に全然いないですよ。
 
だから、結局ね、僕は何でこう云うことを言うかと云えば、沖縄の問題はね、僕は今回は具体的な例を言ったんですが、こう云った市民運動とか、共産党の運動とか、そう云うのが沖縄のためなるって思う人もいるけど、僕は逆になると思っている。
これをこのままやったら、中国に占領されちゃいますよ。もう共産党みたいになっちゃうんですよ。
 
だから、結局は、そのものと敵を作ってバッシングしてって云うのは、未発達の人間がやることなのです。
未発達な人間はどうしても、子供ね。子供は「あの子が悪い、あの子が悪い」と言うんですよ。
 
で、大人になると「あの子が悪いかもしれないけれど、結局、僕らグループが楽しく生活するためには、こうしたらイイよ」となる訳です。
 
だから連合赤軍なんかの総括リンチ事件もそうだけれど、精神的に子供の世界は、バッシングで全部がダメになっちゃう。
精神的に大人の世界は、まあ個別の「あの人が悪い」「この人が悪い」と言えば言えない事もないけど、みんな知らなかったんだから行こうじゃないかってことになる。
この差が、歴史的には、水俣市と四日市市で非常に大きく出ている。
 

 
歴史的に見てもファシスト、コミンテルン、アナーキズムなどは、見事に「敵」を作り出して一般市民を巻込んだ。
 
作り出した「敵」に対しては、容赦なく徹底攻撃を加え、手を変え品を変え、次々と戦術を繰出して途中で妥協することはない。
 
いつしかブレーキが利かなくなって、ヒットラーの敵は「ユダヤ人」、スターリンの大粛清は「ブルジョアジー」という反スターリン勢力、中共の文化革命は「破四旧」(旧い思想・文化・風俗・習慣の打破)という反毛沢東派、ポルポトのクメール・ルージュは「知識階層」の惨殺などが、世界各地で繰り返されてきた。
 
彼等は、ユダヤ人、ブルジョアジー、四旧派、知識階層という敵を作り上げて、果たして社会の何を解決したのだろうか?
 
何かを得るための本来の市民運動ではなく、市民運動に名を借りた政治体制の転覆だけが彼等の目標なのだろう。…だから解決しては困るのだ。
 
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