東京電力の処理方法について方向感が出てきている。

新聞紙上では、国の資本注入および火力発電所の売却が記事化されてきた。


これらの方向性は、おおむねこのブログでも(2011年4月20日)触れたような

資本主義のルールを前提とする一般的な企業再建スキームと通信業界で行われた非対称規制による

産業育成の観点に沿ったスキームに沿っていると考える。


ちらほらとかって送電網の売却について言及のある記事や議員の発言をみた。

しかし、まだ今後も紆余曲折が予想される。


ここで絶対に間違ってはいけないことが3つある。

それは、次の3つだ。


1 送電網については国有化し、その後で一定の国の持ち分を残し株式公開を目指すこと。

  ごく一部について、スマートグリッドやさらに小さなマイクログリット(村単位の水力発電ネットワークなどを

  想定)としての新規参入は認める。


2 発電会社と送電会社の間の電気の卸価格については、発電会社の投資を促す

  長期的な観点で新エネルギーへの移行が安定的に行われるような当局によるインセンティブ・

  規制(送電会社の購入義務規制など)が行われること


3 2と同時に過去のデータに基づき必要電気供給量とそれに加えての事故などの

  事態に備えた余裕電気供給力を決めて、それを満たすような当局によるインセンティブ・規制が

  行われること


ともすれば、なんでも市場に任せればよいということになりがちだが、少なくとも通信業界の経験では

そうではない。


たとえば、ADSLが日本で急速に普及したのは、NTTの既存のカッパーの線を使って新規参入業者が

サービスを活用したからだ。これがもし、CATVや光ファイバーのように物理的な線から敷設しなければ

ならないということになれば当然普及ははるかに遅くなっていただろう。ADSLの場合には、新規参入業者が

NTTのカッパーの線に接続を申し入れば、一定の価格でNTTは接続をすることが義務化されていたのだった。

これは、やみくもな自由化ではなく、ある面NTTへの規制が適切に行われた結果だったのだ。

このようなNTTのようなドミナント事業者に規制を強化する規制を非対称規制という。


非対称規制を行うことは、民間の資金を活用する場合には必要なことだ。あまりに巨額でハイリスクな

投資案件であれば、どれだけ意欲的な事業家がいても資金がつかないからだ。純粋に民間資金では回収

期間が6年以上のものは資金はつかないと考えてもよいぐらいだ。このため、将来の安定的な

キャシュフロー見込めるような一定の長期的安定的な事業環境がないと資金調達は難しくなる。


非対称の規制結果、ADSLやブロードバンドはそのような競争が起きたのだった。

この結果、日本のブロードバンドは世界一高速かつ安価になったのだ。


電力についても同じことが起きうると考える。


また、当然ながら安定供給については、全体として責任を行政が持つ必要がある。このための規制

(価格政策を含む)は、新規参入を含む発電事業者に対してはさまざまなレベルで行われるべきだ。


電力でのイノベーションは、日本の企業の競争力強化に

役立つだけでなく、将来のビジネスモデルとして輸出できるものともなる可能性を秘めていると思う。


さまざまな雑音があると思うが政策立案者や議員の方々は間違わないで日本のためになる

判断をしていただけるよう切に願いたい。

(前回から続く)


にも関わらず、「TPPに賛成か?反対か?」と大騒ぎするのは極めてナンセンスだ。



たとえば、これは、あなたが病気になったときに、いきなり「手術するかしないか即決しろ。ただし、

病気の進行度合や手術以外の他の方法なども教えない。あと、麻酔をかけるかどんな先生どんな手術を

するかも教えない。でもとにかく手術に賛成か反対かはきめろ!」というようなものだ。


これでは、決めようなないだろう。

普通の意思決定方法は次のようなものだろう。


1 手術以外の方法を含めて検討をして手術が必要だと納得する。

  (TPPでなくFTAなどはないのか?韓国はTPPでなくFTAを選択)


2 腕のいい先生を探す。

  (政府・内閣が国民の信任を受けているか?)


3 準備など確認する。

  (たとえば、完全自由化までの準備期間での国内農業の強化策など)


4 手術したらどうなるか確認する。

  (サービス業のネガティブリストにたとえば、医療制度が入るのか?)


こうしたことをきちんと整理しないで「平成の開国」やら「TPPに賛成か?反対か?」などというのは

笑止千万だ。


100歩譲って、」こうした詳細の議論を詰めていては、TPP交渉参加を表明なんかできないという

議論もあるだろう。


しかし、すでのTPP交渉参加を表明したあとで、「全品目対象と言った」、「言ってない」ということで

誤魔化しているは非常にまずい。


結局、手術のための準備もできないまま、手術台に乗るということになりかねない。

政府・内閣はTPP交渉に参加を表明した以上正面を向いて各分野でどのような

対応が必要かを早急に見極め実行していくことが必要だ。



  


TPPで「全品目を対象にする」と野田首相が言ったか言わなかったか議論になっている。

経産省が想定問答を差し替えるべきだったとかという議論もある。


こうした議論をする前にまず、USTR(米国通商代表部)のTPPについてのWebを読んだらいいのにと思う。

日本人は会話は、できなくてもテキストは読むのは得意なのではなかったのか?

まして、マスコミ人は知識人をもって自らを任じているのだから、当然読んでいるだろう。

にも関わらず、妙な議論が新聞などマスコミでもまかり通るのは非常に奇異に感じる。


そこには、次のように書かれている。


Outlines of the Trans-Pacific Partnership Agreement


The agreement is being negotiated as a single undertaking that covers all key trade and trade-related areas. In addition to updating traditional approaches to issues covered by previous free trade agreements (FTAs), the TPP includes new and emerging trade issues and cross-cutting issues.


URL http://www.ustr.gov/about-us/press-office/fact-sheets/2011/november/outlines-trans-pacific-partnership-agreement


訳してみれば、つぎのような感じだ。


協定は、すべての鍵となるような貿易および貿易関連分野を対象にする単一の約束(unedrtaking)として交渉

されています。以前の自由貿易協定で対象として従来のやり方を上書きすることに加えて、TPPは

新しいもしくは今後、発生する貿易問題や分野を横断するような問題を含んでいます。


これを読めば「全品目を対象にする」ということは自明のはずだ。なにしろ参加国全体で単一の約束に

しようとしているのだから。


もっともサービスセクターについては、ネガティブリストでの除外も認めてはいるようだ。


Services and investment packages will cover all service sectors. To ensure the high-standard outcome the nine countries are seeking, the TPP countries are negotiating on a “negative list” basis, which presumes comprehensive coverage but allows countries to negotiate specific exceptions to commitments in specific service sectors.


しかし、前提としてはあくまでもまずはすべての対象として一部をリストで除外するということなのだ。

こうしたことに加えて、さらに非常に腹立たしいのはきちんとした議論がなされていない。


TPPの作業部会では次のような分野で検討がなされている。


○Competition

○Cooperation and Capacity Building

○Cross-Border Services

○Customs

○E-Commerce

○Environment

○Financial Services

○Government Procurement

○Intellectual Property

○Investment

○Labor

○Legal Issues

○Market Access for Goods

○Rules of Origin

○Sanitary and Phytosanitary Standards

○Technical Barriers to Trade (TBT)

○Telecommunications

○Temporary Entry

○Textiles and Apparel

○Trade Remedies


これらについても、すでの一定の議論のポイントは、過去のFTAなどで議論の論点は推定

できるはずだ。こうしたことについても一覧的に整理されていない。


(以下次のページ)