今回は、鍼刺激もしくは鍼通電刺激によって生じる反応のメカニズムについて説明します。

【鍼刺激が伝わる経路(伝導路)について】

  • まず、鍼刺激を感じ取る「受容器」とは、神経細胞が特殊に分化したもので、鍼刺激を皮膚や筋肉で受容するものは、機械的受容器であると考えられ、特にポリモーダル受容器は、機械的・化学的・熱刺激に反応するもので、鍼灸刺激の受容器であると考えられています。(川喜田1990)
  • 鍼を刺して目的の組織に達するまでに生じる刺激感覚は、上述した受容器が電気的情報に変換し、体性感覚神経の軸索に伝え、このインパルス(電気的信号)は脊髄に向かって発射されます。また、鍼通電刺激によって与えられる電気刺激は直接体性感覚神経を興奮させ、脊髄に向けてインパルスを発射します。


【体性求心路(Somatic afferent pathway)について】

  • 受容器から体性感覚神経に伝えられたインパルスは、神経線維を伝わって、脊髄後根を経由して脊髄に入ります。これを体性求心路と呼びます。


【中枢神経系(Central nervous system)について】

  • 求心性情報は脊髄内で(前側索の)脊髄網様体路を通って、より上位中枢すなわち上位脊髄、延髄、橋、中脳で、信号の処理および統合が行われます。情報処理される中枢によって反応の現れ方が決定されます。


【遠心路(Efferent pathway)について】

  • 脊髄や脳内に伝わった刺激は、複雑な情報処理をされ、様々な器官に向けてシグナルが発信されます。神経軸索を伝わってきた電気信号(シグナル)は、その神経終末に蓄えられている化学伝達物質を、シナプスや効果器に放出し、受容体に結合することで情報が伝達されます。これらを遠心路といいます。
  • 鎮痛系の遠心路の例として、中脳中心灰白質と延髄の大縫線核を起始し、セロトニンやノルアドレナリン(NA)を伝達物質とする下行性NA神経、下行性セロトニン神経があり、脊髄後角に投射し、痛覚の伝達を抑制する遠心路がわかっています。
  • あるいは、視床下部-下垂体系は、βエンドルフィンを伝達物質とした鎮痛系であるとともに、内分泌系の中枢でもあり、ACTHによるコルチゾルの分泌促進をも司っています。
  • さらに、交感神経・副交感神経の遠心路は全身の器官に分布し、鍼通電刺激によって反射的に動脈血圧、心拍数、胃・腸管運動、膀胱運動、筋血流、瞳孔、副腎髄質からのカテコラミン分泌を調節していることが知られています。