2022年の政府統計によると、同年、インドでは一日に90件の強姦事件が記録されていた。
「62才になって、夢が粉々になった。
犯人には、もっとも重い罰を与えて欲しい。」
被害者の父親は言う。
そのかたわらに、被害者の母親が沈黙して座っている。
呆然としている。
殺害されたのは、31才の女性のインターン医師。
コルコタの病院に勤めていた。
この事件は、全インドを揺るがす事態となっている。
住宅街の一画に、何の変哲もない白い家。
被害者が住んでいたこの家の周囲が、今、インド中の注目を浴びているのだ。
インドの法律では、被害者と遺族の個人情報を明らかにすることは許されない。
それにもかかわらず、である。
事件は8月9日に起こった。
事件の少し前、夜の11時頃、母親は娘と話をしている。
「おとうさん、時間どおりにお薬のんだ?
ちゃんと確認してね。」
電話で、そう笑いながら言った。
「それが最後の会話になってしまった。
もう、電話しても、呼出音が鳴り続けるだけ。」
31才の被害女性医師の事件をきっかけに始まった「Reclaim the Night」行進で、参加者は全インドの女性の安全を訴えた。
被害者の父親は、高血圧の薬を飲んでいた。
時間通りの薬の服用は、大事なことだった。
「あの娘はいつも、『お薬、飲んだ?』って確認してた。」
とBBCのインタビューに、父親が思い出を語る。
「一度、薬を買いに行こうと思ってて、忘れてしまって、なくなったことがあった。
夜の10時か11時になっていて、夕食時だったんだけど、あの娘は、『お父さんが薬を買って来るまで、食べずに待ってる。』って言って、食事しようとしなかった。」
「いつも、心配してくれていた。」