【ビシュヌ・ポカレル署名記事】
被害者が特定できないように、仮名にしている。
「辛い経験をして帰国したことは、家族はみんな、知ってる。
でも、具体的なことは、まだ、母親にも誰にも、言えないでいる。」
元気のない声で、彼女は語った。
「娘は、わたしが辛い思いをしたことさえ、知らない。」
ババルマハル315(仮名)さんは、湾岸諸国で人身売買の被害に遭ったネパール女性である。
帰国後も、ホッとすることはできなかった。
だから、「知り合いが誰もいない」街で、暮らす。
「外国で、レイプされた。
そして、妊娠させられた。
でも、そんなこと、自分の母親に言えない。」
声を詰まらせながら、そう語る。
「今は、家族のうち、ひとりだけ、事実を知ってる。
でも、他の家族は、知らない。」
BBCのインタビューに、電話越しで、そう語った。
ババルマハル315さんは、数年前から、外国へ行って働くことを考えていた。
夫は、外国へ出稼ぎに出ていた。
10年間、外国で暮らして帰国した夫とは、元の関係に戻れなかった。
離婚した。
実家に戻って、内職のような仕事をしながら、娘を育てる。
こんなんじゃ、やっていけない、と思って、出稼ぎすることを考えるようになった。
「手に職をつけていった方がいいだろう。
そう思って美容師になった。」
人材派遣会社を通じて、湾岸諸国へ行こうとしたが、ことごとく失敗。
そんなとき、パンデミックで外国へ行けなくなった。
パンデミックのあと、ある「エージェント」を知る。
電話をして、外国へ行きたい旨を告げる。
なんとかするから、と言って、カトマンズへ来るように言われる。
そのブローカーは、ドバイにある女性専用ホステルで働けるなら、行けるようにする、と言った。
「最初は、月3万5000で、3ヶ月経ったら4万5000だ。」と言ったという。
それから、ドバイの別のブローカーが、ビデオ電話で面接をした。
「仕事については、何も言わなかった。
既婚か未婚か?
年令は?
彼氏はいるのか?
そんな質問ばっかりするから、変だな、とは思った。
でも、そのときは、とにかく仕事をしたかったから、あんまり気にしなかった。」
「費用が20万かかる、と言われて、支払った。
そしたら、27~28日後、やっと、Visit Visa で空港に連れていかれた。
ドバイ行き。」
ネパールの入管職員が、Visit Visa でドバイに行く、というので、いろいろ質問してきて、足止めされた。
けれども、その場で、ブローカーに電話をしたら、30分後には、通してくれた。
「わたしの銀行口座には、1ルピーもなかったけど、エージェントが「こっちで残高60万のステートメントを見せるから」といって、ステートメントを提出していた。
何もかも、セッティングされていた。
Visit Visa でドバイについて、ある家に連れていかれた。
そこには、他のネパール女性たちもいた。
「でも、誰も何も話そうとしなかった。
わたしたちを部屋に集めると、そのブローカーは外から鍵を掛けた。
パスポートも、その人が持っていった。」
そのときまでは、まだ、彼女は、「Visit Visa で入国したから、こんなふうに暮らさなきゃいけないんだ」としか思わなかった、という。