この一年間もう、大変でした。

 

 ようやくここまでこぎつけた~~~。8月頃は、もう無理かなあ、とか思ったりして。いや、治ってる最中なんだから大丈夫のはずだ、と頭では理解していても、なかなかね。分かっててこれだから、蹄病に振り回されている方は本当に大変だと思う。

 

 どういう事かというと、蹄病が再発。いや、正確に言うと「蹄の真菌症」=「爪水虫」ですね。1年前から抗真菌薬の投与を再開して、蹄の強度の変化にビクビクしていたわけだが、5月頃から全く乗り運動ができなくなってしまった。痛がっちゃって。そりゃそうで、蹄の先に強度の低い部分がどんどん押し出されて、自分の体重でもきつくなっていたわけで、それ+人間の体重なんか、無理に決まってます。

 それから3か月以上、やっと、乗り運動ができるようになった、けれど、本人も疑心暗鬼、お互いに再開時はビビってましたもんね、ここまでこぎつけてホッとしてます。馬が笑顔にならないと、乗る意味ないですから。

 

 なぜこんな事態になったのか?要するに投薬の「やめ時」を見誤った、という事です。真菌が残ってるうちに投薬をやめたら、そりゃ再発するに決まっている。爪の真菌症はそれほどに恐ろしいのだが、そもそも治療例がないんだから、やめ時の見極めができなかった、という事。

 

 ので、今も投薬を続けつつ、やめ時を見極めようとしているのでありますが。

 そうしながら、他の症例をFB等々で見る日々。最近は、あーこれも水虫・これも水虫って、簡単に識別できるようになっている。あーもう、世界中に蹄病がこうも蔓延してるのに、解決策を獣医が提示できないってどういう事なんだよ~~~~!!!いい加減にせいよ~~~。

 

 やめ時のヒントが、最近は見えてきた。

 

 

これは蹄底なのだが、赤丸部分は白っぽくカサカサしていて、裏掘りで簡単に削れてしまう。水虫に罹患していた場所です。白い=大丈夫、ではない。真菌はここから更に奥に隠れている。裏掘り程度で落ちてしまう=強度0なので、残す意味はない。

 怖いのは隣の青丸部分で、黒変している。ここは細菌の2次感染が起きている箇所。これを放置すると、蹄膿瘍を起こしかねない。がっつり消毒して、更に感染を防ぐ手立てを考えなければならない。

 

 では、正常な蹄とは?

 

 ピンボケで恐縮だが、水で湿らせるとよく分かる、蹄の辺縁部だが、この部分は現在、滅茶苦茶固くなっていて、蹄ニッパーでも、切れなさそう。叩くとカンカンと乾いた音がして、湿らせるとピカピカに輝く。ここまで強度が上がるのが、本来の正常な蹄、らしいのだ。当然、この部分は吸水なんか絶対にしない。吸水する=水虫罹患と考えていい。

 

 となると、簡単にナイフなんかで切れてしまう蹄は、既に強度が落ちている=水虫感染を疑っていい、という事。普段目にしている蹄のあり方が、既に異常なのだ、という事だと理解される。最初が間違ってるんだもの、対策が全部間違うのは当然か。

 

 次回からは、この1年の蹄管理の苦労話を書こうかと思います。ご質問をお受けしますので、疑問のある方はコメントでどうぞ。

 

 

 去年12月あたりから、削蹄してもらうのをやめました。なんかね、削蹄すると、体調が悪くなる(体を痛がるようになる・跛行が出てくる等)、ついでに機嫌も悪くなる、それがようやく落ち着いたかなって時に次の削蹄がやって来る、これじゃあ、無限ループじゃないってことで。意味を感じなくなった。

 削蹄をやめて、でも別に蹄が過長になんかならないんですよ。毎回見て思うのだが、蹄の状態が毎度ちょっとずつ変わるのだけど、悪い方向にはどうやらならない。冬場という条件もあるんでしょうけども。こないだ久しぶりに、マニキュアを塗ったら、また、良くなってきてるし。

 装蹄や削蹄で蹄をいじるというの、本当にやっていい事なんでしょうか?

 装蹄でも削蹄でも、野生では絶対に起きない力のかかり方をしますわね、蹄に対して。特にヤスリ。あれ、本当に無用なんじゃないかなあ。

 最近、蹄葉炎の本質がちょっと見えてきて。人間で言えば、要は「ひょう疽」ってことなんでしょう。痛~~~~いよお。これに巨体の体重がかかる、よく我慢できるよ~~~。で、その原因は「爪水虫」と。

 今行われている「治療」ですけど、全部やるべきことと逆行していると感じる。

 とにかく、炎症を起こしている部位についてやるべき第一は「安静」の筈なんです。余計な刺激をするなってこと。ヤスリだのなんだの、ゴリゴリ痛いとことに刺激を加えるって、ひどくないですか?それだけじゃなくて、結局それが「刺激」になって、炎症物質の産生を誘う。で、ますます炎症が酷くなる。

 あと、包帯。あれ、血行を妨げます。従って、治癒が遅れるどころか、下手をするとうっ血して、蹄周囲の組織が死んでしまうことになりかねない。

 という事で、今のスタンダードって、大間違いってことでしょうな。

 自分の馬を見てると、なんか、ディープインパクトの死因が見えてきた気もするんです。あの馬は最初から蹄に問題がある、と言われてました。蹄が薄いから、接着装蹄してたって。だーかーらー、蹄を薄くしちゃうような刺激を一切与えないで、装蹄なし・削蹄なしで行ったらよかったんじゃないのかしらね。祖先のサンデーサイレンスは蹄葉炎で死んでるんですが、これも、思うに、爪水虫の悪化が蹄葉炎を招いたとしか思えない。残念だけど、サラブレッドは、全頭水虫に罹患させられてるもの。冷鉄装蹄&装蹄師の衛生管理不備のせいだけど。
 ディープは、引退した後でも当然水虫治療なんかしてないはずで、そうなると、蹄の不備が全身に及ぶ。首が痛いとかいう話でしたけど、自馬は背中を痛がってた。これ、蹄をあれこれかばって立ってるうちに、あちこちに痛みが波及するんだと思うんです。病態の本質を考えないで、安易に手術なんかして。だから死んだんだよ。多分ね。

 

明けましておめでとうございます。

 今年も多分、色々考えなくてはならないことがたくさん出てくるとは思うんですが、めげずに行きたいと思います。

 獣医療の面白みといいますか、やっぱりねえ、真実は本なんかには書いてないんです。結局患者さんが教えてくれるんですが、それもこれも、こちらがそれを受け取る姿勢があるかどうかで決まっちゃう。本に書いてあることや、誰かが吹聴してたことに、患者さんの状態を当てはめて「そーれみろ」じゃ、全然勉強にならない。診方が凝り固まっちゃって、別視点が入ってこなくなるでしょ。

 大動物の先生方が決定的にできてないのは、「一頭の患者を継続して診る、観る」事に尽きるんじゃないかしら。情報が飛び石だもんね、治せませんよ、それじゃ。カルテすらろくに取ってないようだし。かつて、人医の先生の本に「医学とは記載の学問である」とあって、それを読んでカルテの重要性を理解できたんですが。

 さて、ところで、去年は管理人が獣医師として、初めて自馬以外の馬患者さんに対応し始めた年であります。遠隔地だったので、不安も大きかったんですが、病院の公式ラインアカウントまでつくって連絡をなるべく密にとれるようにしたうえで診療開始。ラインって超便利。写真や動画を簡単に送って頂けるもんで、情報共有がしやすいんですよ。もっと早くつくればよかった・・・・。ラインがそのままカルテになるような利便性があります。

 治療開始後、しばらくしたら連絡が途絶えがちに。どうしたかと思っていたんですが、年末連絡をいただいて、ええ~~、思ってたよりか、全然よくなってるじゃないですか!ちょっと驚き。大体「便りのないのは良い知らせ」が医療では当てはまることが多いんですが、その通りになりつつあるようで、一安心。引き続き、経過をしっかり診れたら良いなあと。その方のご了承を得られれば、当ブログ等で写真等公開できるかもしれません。

 という事で、病院のライン公式アカウントは @635vdahj クラムボン動物病院 でございます。ご相談がある方はご利用ください。

 ちなみに、 当協会のライン公式アカウントもつくってみました。 @522rxshp 日本ビットレスブライドル協会 です。こちらの運用は悩み中ではありますが・・・・・・。ハミなし頭絡の情報も発信したいのですが、どんな情報が需要があるのか、お知らせいただけますと、幸いです。 

 そもそも、正常な蹄って多分こうなってます。

最初できたての蹄組織はそんなにガチガチにはなっていないと思う。しかし、あの巨体を支えている内にどんどん圧縮されて、蹄底に達する頃にはガチゴチになるはず、なんです、本来。野生動物の宥蹄動物(ホントにすごく多いですよね、生息域も幅広い)が、誰一人削蹄師なんぞ必要としていないのは、体重によって蹄がいい感じに固まる削れた分だけちょこっと伸びる、を繰り返しているから。元来そうそう伸びるもんじゃない、というのも抑えるべきポイントだと思います。野生だと運動量が多いから、すぐ削れちゃうから、伸びないんだ、というのは間違いです。

 しかし、例えば濃厚飼料を多給してしまうと、こんな現象が起きたりします。栄養過多のせいで伸びが速すぎて、蹄底を支えられるような硬さになる以前に蹄底に組織が到達してしまうもんで、蹄尖がやたら伸びまくる(ロングトー)。

で、こうした蹄組織の虚弱化が更に深刻になるのが爪水虫。その場合、ロングトーの傾向は顕著になります。だって蹄の組織が食い荒らされてボロボロになってしまうから。こんな感じ。蹄病にはあーだこーだ色々な病名が付いてますけど、結局仕組みは同じで、それぞれの馬の蹄質の一番弱い場所が重点的にやられます。だから、白線が弱ければ白線病・蹄壁が弱くなれば裂蹄・その直下なら蟻道・蹄叉なら蹄叉腐乱、まあなんでもありですが、全て爪水虫が原因で、それを助長するのが濃厚飼料と蹄鉄、となります。

 

 

 で、爪水虫を退治するために抗真菌剤を長期間飲ませるわけですが、そうすると、こうなります。

 抗真菌薬は爪組織に入り込んで定着し、真菌のこれ以上の増殖を抑えてはくれますが、どこもかしこも均一に浸潤するわけではない。恐らく分布域にムラが生じている筈です。真菌側からすると、生存可能域がじりじり減る、もんだから、とにかく生きられそうな場所に集中して増殖しようとします。その部分はどうなるかというと、ビックリするくらいふにゃふにゃになってしまう。または、ガサガサになる。例としては、こんな感じ

これは今年7月頃の左前肢蹄外側ですが、がっさがさで裂蹄が酷い。この部分をハサミで切ると簡単に切れてしまう。ゴム状になっていた箇所までありました。そのくせ蹄尖はやけにがっちりしています。側面への真菌薬浸潤が不足している一方、蹄尖には潤沢に真菌薬が分布しているんでしょう。

 ここまで蹄の状況がアンバランスだと、そりゃあ内部に炎症の一つや二つ起きます。しかも、蹄の上部は蹄質が良くなっているので、要は木靴の中で腫れた足、状況。ちょっとの炎症でもめっちゃ痛くなる。

 これに近いのは、二日酔いの時の頭痛。あれ、脳浮腫なんだそうですが、頭蓋骨ががっちりしてますから、わずかな浮腫でもめっちゃ頭が痛くなる。同じことでしょう。でもねえ、それがあの巨体の足元なんだから。可哀そうだ。。。。

もう一つ、真菌が最も派手に活躍できるのが「高温&多湿」。日本では梅雨時で、大体その頃に蹄の状況が悪化するケースが多いと思うんですが、ジメジメ&高温のせいで真菌が増殖しやすくなるわけ。梅雨時の風呂場と同じこと。

 今回は、蹄の状況がアンバランスな時期がたまたま梅雨時に重なっていたのが大きそうなんです。となると、今は寒くなってるからいいけど、また来年はどうなるやら・・・・。この寒い時期に完全駆逐できるといいんですが。 

 

 この数か月、とにかく跛行が収まらない、一時期は常歩も嫌がる事態になって、いや~~~~~、もう、どないすべえか、と思いつつ、しかし、更に考察し続けて、ようやく落ち着いてきてくれました。今度こそは、後戻りしないでほしい~~。多分大丈夫だと思いますが。

 結局、時間=薬なんだな、と理解したんですが、それもこれも、基本的な治療をきっちりやってきてこその話だと。

 それほどに、爪水虫というのは怖い病気なのだ、という事でもあります。

 しかし、こっちも新兵器も手に入れてたし。やはり、戦うには武器が必要で、なるべく高性能な奴が望ましい。

 具体的に、クラブを移籍してからどうなっていたかといいますと。

 最初の頃はよかったです。移籍数日程度で体調がよくなったのが分かりましたもの。なんやかやいっても、環境がよくなくちゃどうもならんという事か~~。

 で、3月頃からおかしくなってきた。当時は、削蹄が入るたびにひどくなるもんで、一瞬削蹄法が悪いのでは、という考えに傾きかけてたんですけど、そんな筈ないんですよ。むしろ、「削蹄」=蹄に対する刺激という奴で、削蹄法に関わらず、刺激を食らって調子が悪くなっていたのだな、と、今となっては理解できるんですが・・・・・。

 そこから一進二退、じりじり悪くなる。もうあれこれ考えました。なにしろ自己免疫疾患(血小板減少症)もやってる人だから油断ならない。4~5月頃は、杉の木が多い場所なので、ひょっとして花粉症?とか、「リウマチ性多発性筋痛症」のようなものか、とか、あれこれ仮診断を付けてはみたものの、ぱっとしない。自己免疫性疾患の一種なのかなあとか思ってたんですけど、ハズレ。

 2022 6 12 速歩

 この辺から、こうしたヘンな跛行が出始めてます。どうも、花粉症とかの自己免疫疾患のたぐいではなさそう・・・・・。

2022 7 23 速歩

 なーんか、辛そう。この後、状況が悪化して乗り運動ができなくなりました。7月後半以降は常歩も嫌がる事態に。鼻水まで出始めて。もう~~、どうなるんだよ~~。

 もう花粉症の時期は過ぎたから、花粉症ではない。鼻水ってことは、まーた腺疫が復活したのか?ということで、やむなく投薬開始。まずは十味敗毒湯を使って、更にメロキシカム・ビクタスを使う。ビクタスは結局1か月半、十味敗毒湯は2か月くらい飲ませてましたっけ。腺疫ってかなり怖い感染症だと思います。撲滅すべきじゃないかと思うんだけど。リンパ節に入り込む病原体にはろくなのがない。なかなか免疫でやっつけられないんですよね。8月中はほぼ、手入れ&丸馬場で状況観察って感じでした。

 成果はそれなりにあったんです。鼻水は出なくなったし。跛行はどうかというと、ぱっとしない。二進一退って感じ。

 蹄ですが。削蹄時に細かく要求を出すことにしました。とにかく蹄底を一切いじらない・ヤスリを使わない・蹄叉をいじらない・でもらう。つまり、極力蹄に力をかけない、雑に仕事してください、ということです。削蹄師さんは全く納得してないだろうと思うんですがね、オーナーは、こちらですんで。

 ちょっとずつ良くなってきて、9月に入ってから、グッと回復。やれやれ。

 で、この頃から、ほぼほぼ診断が「爪水虫の影響によるもの」と確定できました。きちんと回復し続けていたのに(蹄の外観はどんどん良くなっていたのに)なぜ状況が悪化したのか?これは次回解説します。

2022 9 25 速歩

 10月から、久しぶりの障碍。この程度は本来たやすいんですが。時間がかかりましたなあ~~。でも、本人も嬉しそうだから。健康になってくれれば、元来運動を嫌がるはずないんですよ。

2022 10 02 速歩&クロスバー