6月14日に、日本国際ボランティアセンター(JVC)の会員総会に出席しました。JVCは、日本を含めた11か国で、開発協力や人道支援を行っており、総会では昨年度実施した活動の報告および今年度の活動計画とそれに伴う決算・予算の審議が活発に行われました。
そして、午後の会員の集いでは、「JVC流『積極的平和主義』を考えよう」をテーマに、対談とワークショップが行われました。


(佐々木教授(左)と谷山代表)

対談は、日本平和学会会長の佐々木寛新潟国際情報大学教授と谷山博史JVC代表理事の間で行われましたが、その中で佐々木教授は「積極的平和主義という言葉が、現政権に奪われてしまった。言葉を取り戻さなければならない」と訴えていました。
平和学においては、戦争や紛争が無い状態を表す「消極的平和」に対して、「貧困、抑圧、差別などの構造的暴力がない状況」を「積極的平和」と言います。アフガニスタンやイラク、シリア、スーダンなど、世界には内戦や武力対立で多くの人々が命の危険にさらされています。他方、紛争下では無くても、構造的に貧困や差別の中で生活している人々は、さらに多くの国や地域にいます。私たちNGOの活動は、紛争下の人道支援を行う一方で、様々な国や地域で貧困にあえぎ、差別にさらされている人々が自らの状況を改善するための支援活動を行っています。
JANICのビジョンは、「平和で公正で持続可能な社会の実現に貢献する」ことですが、ここでいう平和は、まさに積極的平和を表しています。

ところが、安倍政権によって「積極的平和」という言葉が捻じ曲げられてしまっています。
昨年12月27日に閣議決定された「国家安全保障戦略」の中で、「国家安全保障の基本理念」として「我が国は、今後の安全保障環境の下で、平和国家としての歩みを引き続き堅持し、また、国際政治経済の主要プレーヤーとして、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、我が国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定を実現しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に寄与していく」としています。このことは、自国および地域の安全・安定のためには同盟国とともに武力をもってでも積極的に関与していくという姿勢の表明であり、そのために現在大きな議論になっている「集団的自衛権」の容認が必要となっています。武力を持って武力を制する、戦争ができる普通の国になる、ということが本当に積極的平和主義なのでしょうか。

古来、人類は多くの戦争を行ない多大な犠牲者を生み出してきました。そういった戦争のほとんどは「自衛のため」という名目で行われます。積極的平和主義に基づく集団的自衛権の行使は、当面は日本周辺に限られるといった弁解がされていますが、徐々に範囲が拡大し、同盟国の求めに応じて今のイラクやアフガニスタンのような泥沼の戦場に日本の自衛隊が戦闘部隊として派遣されることになりかねません。平和国家として国際協力分野で多大な貢献をする一方で、紛争解決の手段としての武力を行使せず誰も殺さないことで、日本は世界から尊敬と信頼を得てきました。それが、現政権が進める「積極的平和主義」や「集団的自衛権の容認」、さらには「武器輸出の解禁」や「憲法改正」によって、今後は平和国家の看板を下ろして、世界中どこにでも戦争に行き、武器を売ってもうける国になろうとしています。

途上国の現場で貧困削減や人権侵害の改善などに取り組む一方で、市民として平和や公正について声を挙げていくこと。それこそが、国際協力NGOが行うべき本来の意味での「積極的平和」です。そして、平和憲法を持つ日本が武力によらない方法、すなわち貧困削減や格差解消など国際協力で世界の平和に貢献することこそ、日本が目指すべき「積極的平和主義」だと思います。